加入しやすい「認知症治療保険」は買いなのか 70歳以上の人たちに人気となっているが…

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認知症は、今後さらにひとごととは思えないリスクになる、と見られているわけです。いずれにしても、確率がわかるのは助かります。「ひまわり認知症治療保険」に加入することで見込める給付額と、保険料の比較ができるからです。

パンフレットにある保険期間10年の例で試算してみます。保険料の例としては45歳から75歳まで掲載されていますが、70歳以上の女性の契約が多いことから、70歳女性が加入することにすると、保険料は月々1万470円、10年間の支払い総額は125万6400円です。

向こう10年で認知症になる確率を、5人に1人の20%と見ると、見込みの給付額は、300万円×0.2=60万円です。これを保険料総額で割ると、保険料が給付金として還元される割合は47.8%になります。約126万円を入金すると約52%に相当する65万円超の手数料が引かれるATMのイメージです。

ちなみに、宝くじ公式サイトで2015年度の収益金の使い道を確認すると、売上金が当選金として購入者に還元される割合は47%ですから、加入者にとっては、宝くじに近い不利な賭けのようにも感じます。

しかし、がんに罹(かか)り、放射線治療を受ける確率も無視できないはずです。国立がん研究センター「がん情報サービス」の統計によると、70歳の女性が向こう10年間にがんに罹る確率は14%です。給付金を10回、計100万円受け取るとしても、見込み給付額は100万円×14%で14万円です。

がんと認知症の両方に罹ると、見込み給付金総額は74万円で保険料総額に対する還元率は58.9%まで上昇します。がんに罹ると入院や手術も考えられますし、別途、骨折での給付を受けることもあるかもしれないということで、見込み給付金額を100万円まで引き上げてみても、還元率は79.6%です。

認知症に備える保険は、歴史が浅いので、給付金の支払い確率をかなり高めに見込んで保険料を設定しているのではないかとも想像しましたが、太陽生命からは「介護関連の保険を扱うなかで認知症関連の経験値も積んでおり、特にそのような事実はありません」と否定されました。

この保険は買いなのか?

ズバリ、この保険は買いなのでしょうか。筆者は慎重になったほうがいいだろうと思っています。「認知症」「放射線治療」などと、「心配事」や「おカネの使い道」に応じた備えを考えると、冷静な判断が難しくなるので、単純に「おカネでおカネを都合する手段」の1つと認識したらいいと思うのです。

すると、保険料の数十パーセントに及ぶと推計されるコストが気になります。先に書いたATMのイメージです。おカネの心配をしている人が、多額の手数料がかかるATMを利用する場面を想像すると、不思議な気持ちになってしまいます。

誤解のないように付言しておきますが、筆者は今回の商品だけを特別に問題視しているわけではありません。どのような商品であっても、保険会社は、各種給付金の支払い見込みや契約に要するコストを明らかにしたほうがいいと思っています。そうすることによって、はじめて消費者は、各自、納得がいく判断をできるようになるのではないでしょうか。

後田 亨 オフィスバトン「保険相談室」代表

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うしろだ とおる / Tooru Ushiroda

1959年、長崎県出身。長崎大学経済学部卒。1995年、アパレルメーカーから日本生命へ転職。営業職、複数の保険会社の商品を扱う代理店を経て2012年に独立。現在はオフィスバトン「保険相談室」代表として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春出版社)ほか、著書・メディア掲載多数。

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