遺伝的に健康な人は乳がんになりにくいのか 乳がんと有酸素運動能力の関連性は
乳がんに対する先天的な健康の役割を調べるため、研究チームはミシガン大学のローレン・コーシュとスティーブン・ブリットンが育成した有名なラットの種を使用した。このラットは何世代にもわたって実験のために踏み車の中を走らされ、疲労するまで最も早く走ったラットも早々に動かなくなったラットも、どちらもその後つがいになったが、生まれた子どもたちの先天的な健康レベルに大きな違いがみられた。
今回の研究では、有酸素活動能力が著しく高い母親と、低い母親から生まれた子どもの雌のラットを使用した。この子どものラットには運動はさせておらず、つまり彼らの健康レベルはほぼ遺伝的なものということだ。
ラットが思春期に入る前に乳がんの原因となる化学物質を投与し、その後、成年期を通して触知可能な腫瘍がないか頻繁に確認した。研究チームはラットが死んだ後にも、小さくて触知できない悪性腫瘍の兆候がないかどうか、乳房の細胞の健康状態を詳細に調査した。
すると、先天的に健康レベルの高いラットと低いラットでは、結果が著しく異なった。生まれながらに健康レベルの低いラットは、健康レベルの高いラットよりも乳がんを発症する確率が約4倍にもなり、いったん発症した場合の腫瘍の数がより多かった。また健康レベルの低いラットは、乳がんを発症する時期がより早く、その後も腫瘍が増え続けた。
この2つのタイプのラットにみられた違いは、細胞の内部にも表れた。特に細胞の生存や成長を調節する「mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)」と呼ばれるシグナル経路の働きが正反対だった。mTORは、酸素やそのほかの要素のレベルを基に、どれくらいのエネルギーがあるかを感知し、細胞に対し分裂や複製をするのに十分なエネルギーがあるかどうかを知らせる。
健康レベルの高いラットは、mTORが細胞に過剰な分裂を抑制するよう伝えるシグナルを送っていたのに対し、健康レベルの低いラットのmTORは、細胞分裂を促すメッセージを送っていた。細胞分裂が抑制されないことは、がんの顕著な特徴だ。過去の研究でも、乳がんを患う女性はmTORが異常に活発である場合が多いと指摘されている。
健康レベルを最も高める運動は?
当然ながら、今回の研究対象は人間ではなくラットだ。しかし、研究論文の主執筆者でコロラド州立大学がん予防研究室のディレクター、ヘンリー・トンプソンは、今回の発見は私たち人間にも潜在的な関係性があると言う。
トンプソンによれば、今回の研究は生まれ持った健康レベルが肉体の健康に広く及ぼす影響を示しているという。研究では、生まれながらに健康レベルの高いラットの子どもは、運動はしなくとも乳がんに高い耐性を持っており、細胞の機能もうまく調整されていた。
彼はまた、大半の人は運動によって生来の健康レベルを高めることが可能だと考えられると指摘する。
トンプソンらは今後、今回と同じミシガン大学のラットを使って、健康レベルを最も高める運動の具体的な方法や量について明らかにしていきたいとし、特に健康レベルの低いラットにおいて細胞の健康とがんのリスクにどのような効果があるのか理解を深めたいという。
© 2017 New York Times News Service
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