アラブの春にソーシャルメディアは効いた?

経済学徒がゲーム理論の手法で分析してみたところの話

ソーシャルメディアの「本当の役割」は何だったのか?

早くも2011年1月14日に、MITシビック・メディア・センター所長イーサン・ザッカーマンはソーシャルメディアへの過大評価に警鐘を鳴らした。だが、彼はソーシャルメディアの影響を完全に否定したわけではない。むしろ反政府活動を促したと主張し、そして、今後はソーシャルメディアがどの程度影響を与えたのかが研究されるべきだと結んでいる。

私はまさにこの問題に取り組んだ。結論からいえば、ソーシャルメディアはアラブの春を促した。しかし、ソーシャルメディアはどんなときでも効果があるわけではなく、検閲が遅い、つまり反政府的な書き込みの削除や投稿者の特定・処罰に時間がかかるときに効果を発揮する。さらに、反政府的な書き込みをしたり革命を煽動したりした市民への罰の重さは重要ではない。それどころか、重罰化は革命を起きやすくもする。

研究は多少数学的なので詳細まで紹介することは難しい。というわけで、詳細や厳密性には目をつぶり概略だけ紹介しよう。また、幾分簡単化の仮定を設けていることにも注意していただきたい。

たとえば、チュニジアやエジプトのすべての人がインターネットを使えたわけではないという批判はもっともだが、ソーシャルメディアの影響に焦点を当てるかぎりにおいてソーシャルメディアが十分普及していたと仮定することは分析の出発点として見当違いではあるまい。また、現在も続く革命後の混乱については分析の対象としない。あくまでも革命にいたるまでのソーシャルメディアの影響に焦点を当てる。

「ゲーム理論」の手法で分析してみよう

黄色部分が均衡

話をわかりやすくするため、市民は2人だけだとしよう。2人が攻撃すれば政府を倒せるが、1人でも攻撃しなければ政府を倒せず、しかも攻撃した人は罰せられるとする。

これは大勢が一斉に攻撃すれば革命は成功するが、革命が失敗すれば暴動を起こした市民は罰せられることを反映している。

まず、ソーシャルメディアが使えず、まったくあるいはほとんどコミュニケーションが取れない状況を考えよう。ゴニムやザッカーマンも言うように、市民はほかの市民が政府や現状をどう考えているのかわからない。この「不安」は行動に強く影響する。

黄色部分が均衡

たとえば、もしほかの市民が現状に満足していれば彼は攻撃しないはずだから、自分は(たとえ不満があっても)攻撃するべきではない。2人とも現状に不満がある場合にも、この「不安」は厄介だ。

互いに「相手は満足してるかも」と思って攻撃をためらうかもしれないからだ。大ざっぱな言い方だが、グローバル・ゲームというゲーム理論の考え方ではこの「不安」が引き金となって互いにリスクを恐れた行動をとる。だから、ソーシャルメディアが使えない状況であれば、革命は極めて起こりにくい。

次に、ソーシャルメディアが使えたらどうなるだろうか? エジプト革命では蜂起日が1月25日に予告されていた(そもそも革命は突然起こるはずで「何月何日に革命しましょう」と予告していたことも特徴的だ)から、分析上もそうしよう。

現実のソーシャルメディアと同様、何度でも書き込めるとするが、それはいつでも好きなときにではなく、書き込める機会は確率的に決まるとする。仕事などのためにいつでも書き込めるわけではない現実を考慮すれば、この設定も納得だ。また、たとえ「攻撃」と書き込んでも検閲で発見される前に「攻撃しない」に書き直せば罰が軽くなるとしよう。

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