アラブの春にソーシャルメディアは効いた? 経済学徒がゲーム理論の手法で分析してみたところの話

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ソーシャルメディアの影響を安易に肯定できない理由

エジプト革命のきっかけは、ワエル・ゴニムが運営していたFacebookページ"We are all Khaled Saeed"(われわれは皆ハーリド・サイードだ)だと言われている。このページでは警察がサイードの死に関して虚偽の発表をしていたことが暴露され、その後、反政府デモが計画された。インターネット普及率の高いエジプトでは、ソーシャルメディアは反政府デモの呼びかけには適していた。実際、あっという間に賛同者が集まった。多くの人がデモへの参加を表明したのだ。それでもゴニムは安心できなかった。デモ当日、本当に人々が集まるかどうか心配だったのだ。

フタを開けてみれば大勢がデモに集まり、革命へと発展したわけだが、だからといってソーシャルメディアが影響したと結論するわけにはいかない。ゴニムも心配していたように「革命に行く」と書き込んでも、実際には行かなかったかもしれないからだ。ソーシャルメディアの影響をめぐる論争は、パソコンや携帯電話の前で人々がどうしたかではなく、ソーシャルメディアが市民を家の外へ、街へ、広場へ駆り立てたかどうかで紛糾しているのだ。だから、なぜ多くの人が実際にデモに行ったのかまで説明しなければならない。

革命時のタハリール広場(著作権者:Ramy Raoof、Wikipediaより)

革命の契機になったとされるFacebookやTwitterでの「1月25日タハリール広場に集まれ!」という呼びかけは、エジプト政府も閲覧できたはずだ。これは、実際に1月25日にタハリール広場に行けば逮捕・処罰されかねない、ということだ。すると、「行く」と書き込んだ人も本当に行くとはかぎらない。

このことを経済学では書き込みにコミットできないと表現する。確約できないという意味だ。ということは、本当に革命に行くつもりで「行く」と書き込んでも信じてもらえないかもしれない。このような状況下で、なぜ市民たちは実際にデモに行ったのだろうか?

インターネット検閲も重要だ。チュニジアのベン・アリー前政権も、エジプトのムバラク前政権も、インターネットを検閲し、まれにではあったが反政府活動を行っていた人を逮捕・処罰していた。インターネット検閲はアラブ諸国にかぎった話ではない。中国ではFacebookもTwitterも使えない。代わりに両者の特徴を併せ持つWeiboが使える。しかし、Weiboで反政府的な書き込みをすれば5~30分で約30%が、24時間以内に約90%が削除され、アカウントも停止され得る。驚異的な速さである。インターネット検閲の下で、ソーシャルメディアは本当に革命に影響したのだろうか?

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