アラブの春にソーシャルメディアは効いた? 経済学徒がゲーム理論の手法で分析してみたところの話

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「不満」と「不安」の狭間に現れたソーシャルメディア

閑話休題、ソーシャルメディアの影響の分析に戻ろう。「1月25日タハリール広場に集まれ!」という書き込みを見た市民は「行く(攻撃)」あるいは「行かない(攻撃しない)」のどちらを書き込むべきだろうか? (行かないつもりなら何も書き込まないかもしれないが、この場合は「行かない」と同一視する。) そして、1月25日にはどちらの行動をとるべきだろうか?

仮に、自分も相手も「行く」と書き込んだとしよう。相手が「行く」と書き込んだのを見れば、相手も現状に不満があることがわかる。もはや互いに何を考えて いるのかわからない「不安」はない!(一方、「行かない」という書き込みには「不安」が残る。不満がないから「行かない」のか、不満はあるが「行かない」 のかは、わからないからである)。

だが、依然として互いに「行く」と書き込んでいるからといって本当に「行く」のか? という疑問は解決されていない。厳密な議論はここで少し複雑になるので、結論だけ言おう。

黄色部分が均衡
分析の結果からは、ある条件の下で頻繁にソーシャルメディアに書き込むことができるなら2人とも実際に「行く」ことが示される。

この結果を陰で支えているのはインターネット検閲の存在である。検閲は市民から発言の自由を奪い、インターネットの反政府活動への利用を妨げる側面もあるが、この場合には検閲も革命の一端を担っていたといえる。

以上の議論で、ソーシャルメディアで反政府活動が盛り上がっていれば、実際に革命に出向くことがわかった。残る問題は、そもそも「行く」と書き込むか否かだ。一見すれば、検閲にビビって「行かない」と書き込む可能性も否定できないように思われるが、これも、

頻繁な書き込みが可能ならば、現状に少しでも不満なら「行く」と書き込むことが示される。

したがって、2人とも現状に不満ならば、2人とも「行く」と書き込み、そして実際に革命が起こるのである。これを現実に当てはめると、現状に不満を持つ人が実際に多くいるような状況においては、頻繁なコミュニケーションを実現したソーシャルメディアは、アラブの春に大きな役割を果たしたといえる。

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