アラブの春にソーシャルメディアは効いた?

経済学徒がゲーム理論の手法で分析してみたところの話

中国で民主化運動が失敗した理由

チュニジア革命後の2011年2月、中国でもWeiboでの呼びかけに端を発する民主化運動が起こった。状況はチュニジア革命やエジプト革命と似ていたが、中国の民主化運動は失敗した。政府が鎮圧したのだ。チュニジア革命やエジプト革命といった「(政権交代に寄与したという意味での)成功例」だけを説明できても、ソーシャルメディアの本当の影響を説明したことにはならない。しかし、前述した分析では「失敗例」も柔軟に説明できる。

なぜ中国の民主化運動は失敗したのか? 理由は検閲の速度にある。実は、

ソーシャルメディアが革命を促すという結果は、検閲が遅いときにしか成り立たず、検閲が速いときには革命は起こりにくいことが示される。

ここで、検閲が遅いとは、たとえば「革命に行く」と書き込んでから拘束や処罰されるまでに時間がかかる可能性が高いことを言い、他方検閲が速いとは反政府的な書き込みから短時間で拘束や処罰される可能性が高いことを言う。前述したとおり、アラブ諸国の検閲は遅かったが、中国の検閲は脅威的に速かった。重要なのは罰の重さではなく検閲の速度なのだ。

結論

ゲーム理論を用いてアラブの春におけるソーシャルメディアの役割に迫った。ソーシャルメディアは人々が革命について話し合うのに役に立っただけではなく、実際に革命に向かわせるほどの強い影響を及ぼしたことが示された。政府の立場では、革命を阻止するには検閲の高速化が有効であることが示された。

以上の議論は、既存の議論と大部分において整合的だ。そして、争点となっていたソーシャルメディアが市民を実際に革命へと向かわせたかどうかに対して明確な答えを与えた。これまでアラブの春についてはほとんどが言葉で議論していたのに対して、ここでは数学的な議論を試みた。数学的な議論では厳密性は保たれた一方で、捨象せざるをえないことが多かった。アラブの春のような学際的関心事においてはさまざまな学問分野の視点や手法が要求されるはずだ。以上の議論が、多少なりとも新たな視点を提供するものになれば、とても嬉しく思う。
 

参考文献

・Ghonim, W. (2012), Revolution 2.0: The Power of the People Is Greater Than the People in Power:A Memoir, Houghton Mifflin.

・Howard, P., M. Hussain, W. Mari, M. Mazaid, and A. Duffy., "Opening Closed Regimes What Was the Role of Social Media During the Arab Spring?," Project on Information Technology Political Islam, p. 1-30, 2011.

・Zhu, T., D. Phipps, A. Pridgen, J.R. Crandall, and D.S. Wallach (2013), "The Velocity of Censorship: High-Fidelity Detection of Microblog Post Deletions," arXiv:1303.0597

・Zuckerman, E. (2011), "The First Twitter Revolution?," Foreign Policy, January 14.

 

※本稿は日本経済学会2013年度春季大会において行われたポスターセッション報告「アラブの春におけるソーシャルメディア:均衡選択理論によるアプローチ」を元にしています

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