対北朝鮮政策は、「満州事変の教訓」から学べ

86年前、なぜ日本は「暴走」したのか

結果を知ったうえで、当時の日本の選択を批判するのは簡単だし、いささか卑怯(ひきょう)な気もするが、日本が大戦に至った経緯と敗戦時に満州に残された人々の苦労を思うと、なぜ日本は石橋湛山が主張するように満州を放棄できなかったのかという思いを抑え切れない。

現在に通じる満州事変の3つの教訓

当時の日本の指導者たちが満州を放棄できなかった理由は3つあると思う。

理由1:指導者が現場を知らなかった

伊藤忠商事に入って間もなく私はニューヨークに駐在した。そのとき役員であった瀬島龍造氏(1911~2007年)から次のようなアドバイスをもらった。

「もし問題が起こったら、すぐに飛行機に乗って現地に行きなさい。おカネなんか気にしなくていい。それで会社から文句を言われるようなら、私に言いなさい」

問題は現場で起こり、解決策もまた現場にある。「すべては現場に宿る」のである。遠い日本から満州の実情を聞いていても、正しい判断はできない。

こういうと、満州国の中枢には日本人が多くいたし、関東軍も現地にいたのだから、現地を見ていなかったということはないではないかという異論があろう。しかし、国の政策を決定するのは日本国内の指導者たちである。彼らの耳には、現地の担当者からの報告しか入らない。

私は経験的にいって、不良資産や赤字などの悪い話は実際の3分の1程度しか現場からは上がってこないと見ている。トップ自らが現場へ足を運び、「最後は私が責任を持つから、すべて出しなさい」と働きかけて、初めて全容がつかめるのだ。

トップが何の働きかけもしなければ、現場は7割の悪い話は隠そうとする。むろん、隠そうとする現場に非があるのは間違いないが、隠させるトップにも非はある。

部下に隠しごとをさせるトップは、人に対する理解が足りないのだ。現場の人の気持ちがわからないということも、現場を知らないということである。当時の日本政府の中枢にいた指導者たちが、どこまで満州の実情を知っていたのか、大いに疑問である。

理由2:覚悟と勇気が足りなかった

一度始めた大型プロジェクトはなかなかやめられない。中止すれば、やめたトップの責任のみならず、プロジェクトの実行を決めたときのトップにも責任が及ぶ。責任を取るには覚悟と勇気がいる。私も伊藤忠商事の社長時代に、3950億円もの不良資産を処理したときには、もし、この結果、会社が倒産することになったら、私は一生後ろ指を指され続けることになると思ったものだ。

また、プロジェクトを中止すれば担当者からは強い抵抗を受ける。満州国にあっては、担当者は武装した関東軍である。政府中枢の要人といえども、場合によっては命にかかわるかもしれない。

当時の日本の指導者たちに、並々ならぬ覚悟と勇気が求められたことは火を見るよりも明らかである。しかし、310万人ともいわれる死者を出した戦争のことを考えると、このとき国の指導者により強い覚悟と勇気があればと思わざるをえない。

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