スタンガンは「安全な制圧方法」とはいえない 警察が使用したケースで全米1005件の死亡例
メイソンさんの母親、ロンダ・テイラーさんは、メイソンさん自身が風景画をペイントした小さな木箱に彼の遺灰を入れ、持ち歩いている。「警官が、精神疾患のある誰かをこんな風に殺すことで、その母親も殺すのだ」と語る。
息子の死後、テイラーさんは、アメリカ自由人権協会のロビー活動を支援し、州政府にテーザー銃の使用規制を導入するよう働きかけた。
バーモント州は2014年、警察がテーザー銃を使用できる状況を限定する州法を制定し、それを携帯する警察官の訓練基準も定めた。例えば、テーザー銃使用は、相手が「攻撃的な行動を取っている」場合に限定されている。
「説得する時間を取りたくないからといって、テーザー銃を使ってよいわけがない。子どもをこんな風に失う人が、他にいてほしくない」とテイラーさんは語り、涙を流した。
最善の方法は時間をかけて話をすること
精神的な危機状態にある人への対応は困難を伴うため、「危機介入訓練(CIT)」を導入する警察署が増えている。テネシー州メンフィスで1988年に最初に導入されたCITは、スタンガンなどの強制力を使うのではなく、状況の沈静化へと導くことに重点を置いている。
だが、全米の警察機関1万8000のうち、CITを導入したのは3000程度にとどまるとみられている。
アリゾナ州フェニックスの警察では、2000年にCITを導入し、警官500人以上が訓練を受けた。また2015年以降、精神疾患のある人への接し方について8時間研修の受講を全警察官に義務付けている。テーザー銃の使用頻度は、2006年の330回から、2016年には158回に急減した。
テーザー銃の訓練を担当するビンス・ルイス巡査部長は、この銃の使用は「最後の手段」となりつつあると話す。「精神疾患に苦しむ人に対応する場合、最善の方法は時間をかけて話をすることだ」