スタンガンは「安全な制圧方法」とはいえない

警察が使用したケースで全米1005件の死亡例

マカダム・リー・メイソンさんが、テレサ・ダビドニスさんとその子供たちと一緒に住んでいたバーモント州の自宅からふらふらと出てきた時、その表情は茫然としていた。発作から回復しつつあるときは、いつもそんな様子だった。

だが2012年のある6月の午後、自宅を囲んだ州警察は、そうは受けとめなかった。

アーティストだった当時39歳のメイソンさんは、高校時代の自動車事故の後遺症で、精神疾患の症状や発作に悩まされていた。

その日の午後、メイソンさんはカウンセラーに自ら電話し、発作を起こし、怒りのあまり自分自身もしくは他の誰かを殺害してしまいそうだと告げた。これを受け、警察はこの日の午後、彼の自宅を訪ねた。その時は、ダビドニスさんが応対し、いつもの症状なので心配ないと説明していた。

その後の様子を確認をしようと警察が再び自宅を訪れたとき、ダビドニスさんは不在で、ドアを叩いても応答がなかった。警察は、メイソンさんが周囲の林に隠れているのではないかと考え、警戒態勢を取った。ダビドニスさんが用事をすませ帰宅したのは、その時だった。

「電撃武器の使用による突然心停止」

警察官のデービッド・シャファー氏は、茫然とした様子で庭を横切るメイソンさんを発見。ライフル銃を低く構えて近づき、地面に伏せるようメイソンさんに指示した。

メイソンさんは手を上げ、草の上に座り込んだ。だが、顔を下にして伏せるよう指示するシャファー氏を無視して、再び立ち上がった。そして、「撃ってくれ」と言った。ダビドニスさんの目の前で、シャファー氏はライフルをテーザー銃に持ち替えた。

「私は、『テーザー銃はやめて。さっき発作を起こしたばかりで、死んでしまう』と叫んだ」と、ダビドニスさんは振り返る。「でも警官は発射し、針が彼の胸にささって、スローモーションみたいにふらふらと崩れ落ちた」

メイソンさんは心停止に陥り、死亡した。医療検査官は、死因について、「電撃武器の使用による突然心停止」だったとして、スタンガンの使用に原因があると結論付けた。

次ページメイソンさんのケースでは
政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 近代日本を創造したリアリスト 大久保利通の正体
  • 夢を諦めない「脱会社員の選択」
  • 忘れえぬ「食い物の恨み」の話
トレンドライブラリーAD
人気の動画
東芝、会社「3分割」に残る懸念
東芝、会社「3分割」に残る懸念
節約志向で「安い食品ばかり買う」人の重大盲点
節約志向で「安い食品ばかり買う」人の重大盲点
EVの切り札?夢の「全固体電池」は何がスゴいのか
EVの切り札?夢の「全固体電池」は何がスゴいのか
サイゼリヤが「深夜営業廃止」を決断した裏側
サイゼリヤが「深夜営業廃止」を決断した裏側
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
「非財務」で生きる会社、死ぬ<br>会社 企業価値の新常識

今や株価を決める最大の要因は「非財務情報」というのが世界の常識に。優れた開示を行えば企業価値の向上につながる一方で、開示が不十分だと株を売られるリスクも。企業価値の新常識をめぐる混乱とその対処法に迫りました。

東洋経済education×ICT