絶対にゆるまないネジはなぜ売れ続けるのか 町工場のエジソン社長は謙虚に学び続ける

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ただあくまで本業はハードロックナットです。絶対に緩まないネジが必要な顧客を探した結果、「鉄道業界」に行き着きました。ナットが緩むと大事故につながりかねない業界です。まず関心を示してくれたのが、関西の大手私鉄でした。安全性の確保に加え、保守要員の人件費削減が期待できるのが決め手でした。他の私鉄も追随し、受注量が急増します。

ともにヒット商品となった、玉子焼き器とペーパーホルダー(イラスト:ハードロック工業提供)

次は、民営化したJRの新幹線がターゲット。1編成(16車両)で2万個以上のナットが必要な大きなマーケットです。鉄道技術総合研究所の試験の結果、ハードロックナットが断トツの性能を発揮しました。しかも新幹線の車両は100万km以上走ると、金属の疲労破壊を考慮して、外見上ナットに異常がなくとも全数交換します。大量なうえに安定的な受注が確保できました。

なおペーパーホルダーは、ロール紙のトイレットペーパーが主流になって2年間で売り上げ激減。玉子焼き器もほぼ3年間で需要が一巡しました。でもそれでいい、と若林社長は言います。中小企業にとって、ヒット商品を次々に生み出して多角化することは、諸刃の剣(つるぎ)です。複数の事業を軌道に乗せる体力がないからです。こうしたヒット商品より、ハードロックナットのようなロングセラー商品が、中小企業の屋台骨を支えるのです。

そしてハードロックナットをロングセラー商品にするため、若林さんは外部の力も積極的に活用しました。まずは「大企業」の力です。

鉄道の次は通信へ

鉄道の次の攻略目標は、日本電電公社(現NTT)の通信用鉄塔でした。電電公社の東京本社に日参した結果、先方の部長から「熱意に負けた。検討するので工場見学に行きます」との連絡が来ます。当時の本社工場は、古い貸倉庫を改装した2階建て建屋で、とても人様に見せられる代物ではありません。それでも先方の求めに応じて視察が行われ、恐る恐る結果を聞きました。

「若林社長、工場が古くて狭いのはいいんです。問題は生産管理や品質管理がまるでなっていないことです」

やはり取引中止か、とがっかりしていると、続きがありました。「しかしハードロックナットの技術はすばらしいので、ぜひ採用したい。われわれが指導するのでマニュアルを整備し、それに従って品質管理を行ってください」とのこと。先方の指導の下、1週間泊まり込みで管理マニュアルの整備、品質管理体制の構築を行い、電電公社の指定工場になることができました。この経験から、中小企業だけでは知識やノウハウに限界がある、大企業とのかかわりがあって初めてレベルアップも図れる、と実感しました。

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