大勢の参拝客に混じりながらふと上を見上げて、閃くものがありました。鳥居です。継ぎ目の要所要所にクサビが打ち込んであります。1000年以上前の先人の知恵。日本古来の緩まない構造がそこにあったのです。
そして1年間研究を重ねて完成したのが、上下に分かれた「ダブルナット」です。上下のナットは凹型と凸型で、下側の凸型形状部分だけはネジ穴の中心を少しずらして偏心しているのがポイント。ボルトに凸型ナットを通し、上から凹型ナットを締め付けると、凸型ナットの偏心箇所が凹型ナットの内側に接触し、さらに締め付けていきます。その結果、ボルトに凸型ナットが軸直角方向から押さえつけられ、ボルトナットのはめ合い部分のガタを完全になくしていきます。まさに、上下のナットでクサビをすき間に打ち込んでいく仕組みが完成したのです。
遂にできた、さぁ、大々的に売り出そう、と張り切る若林さんに対し、共同経営者は気乗り薄でした。今の商品で十分に世の中に受け入れられているし、価格も2~3割高ではないか、と現状維持を主張します。このまま一緒にやっていくのは無理がある、と思った若林さんは「じゃあ、この会社はあんたに譲ります」と言ってしまいます。念願の絶対緩まないナットが開発できたうれしさで、莫大な私財と時間をかけ月商1億円以上にまでした会社をあっさり譲渡することにしたのです。
さすがに奥さんや兄弟からあきれられました。厳密には売り上げの3%というロイヤルティをもらうことにしましたが、共同経営者からは「本当にそれだけでいいのですか?」と何度も念を押されたと言います。もちろん、自らも後悔しましたが、それより「アイデアは人を幸せにする」という信念に従おうと思いました。この自信作で社会の役に立とう。新しいハードロックナットにそれだけ自信があった、ということでもあります。
ヒット商品よりロングセラー商品を目指せ
若林社長はUナットの時の経験から、どんなによい商品でも世の中に受け入れられるには最低2~3年かかる、と考えていました。前述のロイヤルティだけではとても従業員(当時10人)を食べさせられません。
そこで発明したのが、玉子焼き器とペーパーホルダーでした。玉子焼き器は、取っ手の逆側の底面に30度ほどの角度をつけました。こうすると厚焼き玉子が、早くうまく焼けます。ペーパーホルダーは、当時、トイレの床に置かれていた平紙を壁にかけるものです。平紙メーカーに納め、セット商品として売ってもらいました。ともにヒット商品となり、ハードロックナットが売れるまでの2~3年、会社を支えてくれました。
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