展示されていた「戻り止めナット」は、中にコイル状のスプリングが組み込んであり、それで戻り止め効果を出す構造でした。ただ値段が高い。若林さんは「もっと簡単で安いものを作れる」と直感します。
ばね効果を出すのに、何もコイル状でなくても、板状でよいのでは。そして完成したのが「Uナット(ユニオンナット)」です。「2時間でできました」というから驚きます。この商品は必ず売れると確信し、28歳で脱サラして会社を興します。家族からはかなり反対されましたが、独身で気楽な身分だったこともあり、思い切って独立しました。
新製品を売るには問屋でなく最終ユーザーに当たれ
しかし、サンプルを作って問屋に持ち込んでも突き返される日々。そこで問屋はやめてユーザーに直接見てもらおうと考えます。そうは言ってもすぐに使ってくれるわけもなく、工場の片隅に50個入りの小箱を置かせてもらっては帰ってきていました。
成果は出ず、他の創業仲間も「このまま広げても大損だ。もうやめよう」と言い出す始末。若林さんもそろそろ潮時か、と思い始めます。そんな矢先、一本の電話がかかります。「あのナット、もう一箱持って来てんか」。コンベアを造っている会社が、在庫が切れたので置いてあったUナットを使ってくれたのです。大喜びでもう一箱持参しました。
そのまま置いて帰ろうとすると、代金を支払う、と言われました。1個19円で50個入りですから1000円にも満たない金額です。「それでもうれしかったですねぇ。長いこと会社をやってきましたが、この時ほどうれしかったことはありません」。
この経験から、製品がいくらよくても売れなければ意味がない、とつくづく感じました。問屋は業態柄、売れているものしか扱いません。それなら、ネジ卸の先のコンベアメーカーに売り込むしかない。実際に自社の商品を使ってくれている人の所に出向いて、その評価やニーズをつかむこと。これが、新分野の商品を売るには不可欠ということを学びました。
折からの自動化・省力化ブームでコンベアが飛ぶように売れ、併せてUナットも順調に売り上げを伸ばしました。月商も1億3000万円を超えるまでになります。ところが、好事魔多し。杭打ち機を造るメーカーから、建設現場で使い続けたらボルトが緩んで機械が壊れた、とのクレームです。
修理費用の半額を負担しましたが、こうしたトラブルがほかにも数件発生しました。緩まないといっても、強い衝撃を与え続ければどうしても緩みが生じます。若林社長は、喜んでもらえるはずのUナットが皆を困らせている、と悩みました。一緒に経営に当たっていた共同経営者は、単なる一つのクレームととらえましたが、若林さんには会社の存在意義を揺るがす大問題でした。
そして「よし、絶対に緩まないネジを作ろう」と決意します。しかし、事業の傍ら開発に励みますが、いくら工夫しても、激しい振動を持続的に与えると緩みを生じます。考えあぐねた若林さんは、気分転換にと、近所の住吉大社に出掛けました。
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