邦人初!宇宙飛行士トップの「上り詰める」力 なぜ目立たなかった彼が、化けたのか?

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若田は過去3回、このNOLS訓練に参加しリーダーシップを磨いてきた。その回数は日本人宇宙飛行士で最多だ。最初に参加したのは2001年8月。訓練は最悪の状態で始まった。

「当時3歳だった子供から風邪をうつされたまま、訓練に参加してしまった。自己管理能力がなかったと言わざるをえません。登山を開始した日の晩から40度の発熱に見舞われながら、米国ワイオミング州にある標高約4000メートルの山頂を目指すことになったのです」

リーダーシップを学んだNOLS訓練
(出展:NASA)

若田が途中で倒れればチーム全員が登頂を断念しなければならない。全員で登るか、全員があきらめるか。メンバーが頂上まで登りたい気持ちは十分わかっていたが、無理して倒れれば自己管理は最低の評価になってしまう。肉体的・精神的な限界を探りながら、毎朝、ミッションを継続するか否かを判断する。熱はなかなか下がらなかったが、リーダーの任務も回ってきた。若田は可能な限り休息と水分補給に務め、リーダーの任務を果たした。

「ストレスが高いときこそ人間の本性が現れます。どういう行動をしたかは、後々までみんなの記憶に残るもの。40度の発熱でも断念せず、リーダーも務め登頂したことは仲間から評価された。『お前、よくあそこで断念しなかったな』と。自己管理の大切さと、心身ともに限界の状態での判断力を学びました」(若田)。

リーダーシップについては、「宇宙飛行のリハーサル」と呼ばれる海底での訓練、NASA極限環境運用(NEEMO)も経験。若田は2006年、第10回NEEMOミッションでコマンダーの役割を任されている。米国フロリダ沖の海底20メートルにある大型バスほどの広さの閉鎖施設に6人のチームで、7日間を過ごす。

若田はコマンダーとして、準備段階でメンバーの仕事の割り振りや訓練計画の立案、海底基地での本番では分刻みのスケジュールを管制室とやり取りしながら率いた。その仕事ぶりに、「やはり若田はコマンダーができる人材だね」とNASAから高評価を得たとJAXA関係者は語る。

ISS船長より大変?NASA管理職時代

このように極限環境でリーダーシップを磨いてきた若田。それでもさすがにISSの船長の役割は大変ではないか、と問いかけると、「もっと大変な仕事を経験させてもらいましたよ」と返され、驚いた。船長より大変な仕事とは、いったい何なのか。

「船長に任命されるためには、過去の宇宙飛行中の仕事や訓練での成績、地上業務など、それまでの宇宙飛行士人生すべてが評価の対象になります。自分にとっては、船長に任命される前に就いた、NASA宇宙飛行士室のマネジメントの仕事が最も大変でしたね」

宇宙飛行士は宇宙にいる間だけ仕事をするわけでなく、地上でもさまざまな業務を担当する。若田は2009年にISSで長期滞在を行った後、NASA宇宙飛行士室の宇宙ステーション運用部門長としてマネジメント職を約1年間務めている。

この仕事は、それまで若田が行ってきたような宇宙飛行のための訓練や、技術系の開発業務とは異なる。宇宙飛行士の訓練、そして宇宙飛行を支える世界各国のさまざまな担当者との「交渉」や「調整」を行い、ISSに搭乗する宇宙飛行士の業務全体を支援するという仕事だった。 

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