40代独身者が「幸せになれない」根本原因 結婚が「幸せ」を運んでくるわけではないのに

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「フォーカシング・イリュージョン」という言葉をご存じでしょうか。これは、ノーベル経済学賞の受賞者であり、行動経済学の祖と言われる米国の心理学・行動経済学者ダニエル・カーネマンが提唱した言葉で、「いい学校に入れば幸せになれるはず」「いい会社に入れば幸せになれるはず」「結婚すれば幸せになれるはず」というように、ある特定の状態に自分が幸福になれるかどうかの分岐点があると信じ込んでしまう人間の偏向性を指します。簡単に言えば、「思い込みから生じる幻想」ということです。

「とにかく結婚したい」という人の思い込み

もちろん目標を定めて努力することは大切ですが、学歴や就職や結婚が自動的に幸せを運んできてくれるわけではありません。たとえば、結婚したいという女性がよく言うセリフに「相手はいないけど、とにかく結婚したい」というのがあります。これこそ結婚という状態に身を置けば、幸福が手に入るはずという間違った思い込みです。結婚すれば幸せになれるという考え方は、裏を返せば、「結婚できなければ幸せになれない」「結婚しないと不幸だ」という理屈と同じで、結婚という特定の状態に依存してしまって、それ以外の選択肢を排除しているようなものです。むしろその思考こそが不幸感を増幅させているのではないかと思います。

幸せの形はさまざまです。結婚して、子どもを産み育て、あたたかい家庭のだんらんに安らぎを感じるのもひとつの幸せの形でしょう。しかし、それだけが幸せになれる唯一の道筋ではありません。自分の愛する人、自分を愛してくれる人とともに時間を過ごすことも幸せの形ならば、恋人や家族でなくても、興味関心や価値観の合う人、または「考え方を同じくする人」との交流でも十分幸せは感じられます。さらには、人であるとも限りません。趣味であれ、仕事であれ、「好きなことに時間を忘れて没頭できること」もまた幸せの形でしょう。

前述したソロ男女の「自己有能感」と「自己肯定感」の相関で言えば、「自己有能感」が高いソロ男女は、ほぼすべてが「自己肯定感」も高いのです。つまり、何らかの自己実現を成し遂げて、自分自身に自信があるソロは自己肯定できているし、結婚という状態いかんにかかわらず幸福感を抱いているということなのです。それこそが、フォーカシング・イリュージョンに惑わされず、幸福を感じられているということでしょう。

幸福とは、結婚しているか子どもがいるかというどんな状態であるかが大事なのではなく、どんな状態であろうと幸福を希求する今この時の行動力があるかどうか、そして、どんな小さな喜びでも素直に受容し、幸福感を抱けるかどうかの心の持ち方ではないでしょうか。

大きなお世話かもしれないですが、逆に、既婚男女の幸福感が高すぎなのではとも思います。既婚男女ともほぼ全年代で、8割以上が幸福感を感じていることは決して悪いことではありません。が、無理やり幸福であると思い込もうとしているということはないでしょうか。それもまたフォーカシング・イリュージョンの罠(わな)です。さらに、万が一離死別でソロに戻った瞬間、一気に不幸感を超えて絶望を感じやしないかと危惧しますが、杞憂(きゆう)であることを願っています。

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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