ヤマト元社員が訴える「宅配現場」本当の疲弊 未払い残業代を払い値上げしても解決しない

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(3)奪われたのは時間と人員だけではなかった

ドライバーの疲弊の原因は、アマゾンをはじめとするネット通販による物量の増加や再配達問題とされている。

配達同様に目が回る取引先や個人宅に伺う集荷にクレーム対応、営業所に戻った後に行う事務仕事。確かにそれも要因ではあるが、長年現場にいたから感じる問題はまったく別のものだ。

それは、地域密着による顧客との結びつき、それをつくってきた「ドライバーの誇り」が奪われてしまったこと。ドライバーの過酷な労働の疲れを癒やしてくれるのが顧客の笑顔。次の日の活力となっている。

ヤマトのドライバーは地域密着度が高い。配達先の人と軽い立ち話をすることもよくあり、その地域の担当ドライバーは、配達先との会話の節々から、住民の生活スタイルをある程度把握している。家族構成から勤務先や学校、出社や帰宅時間、近隣住民の仲までも。住民のことを聞かれれば町内会長や警察よりもわかる。したがって、顧客の要望に臨機応変に対応することができた。

「助かるのよね。ちゃんと在宅している時間を見計らって届けてくれるから。他の会社の人なんて午前中に来て不在票を入れていくのよ。そんな時間、いるワケないじゃないね。それに安心だしね。ヤマトは知っている顔の人が届けてくれるから」(共働きの女性)

委託業者に配達を依頼したが……

最近は事情が変わった。荷物の増加により、委託業者に配達を依頼することが増えた。委託業者が、ドライバーから引き継ぎされた情報で在宅時間に配達しても、いない。いないというより出ない。見慣れない顔が来たから居留守を使う、そんなケースも多いのだ。それにより再配達がまた増える。

「ヤマトさんとは、毎日のように顔を合わせるから妙に親近感持っちゃってね、身内に話せないこともヤマトさんには話せちゃうからね。そう、ヤマトさんのことを配達員なんて思ったことないわ。彼氏よ、彼氏」(60代女性)。その女性も最近、配達員がゆっくり話してくれないと嘆く。

hand to handで届けてきたからこそ見られるお客の笑顔。確かに荷物も増え、宅配ボックスが必要な場面も多々ある。ただ、ドライバーもただ「物」を届けているとは、思ってはいない。発送した人の「想い」を届けている。ドライバーは労働時間も奪われたが、何よりもお客とゆっくり話せるゆとりの時間と、そこに対する誇りを奪われつつあることが、何より疲弊感を大きくしている。

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