キリスト教会爆破したイスラム過激派の論理 IS「処女地」で起きたエジプトでの自爆テロ

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エジプトのキリスト教会で起こった連続爆発テロ。政府は非常事態宣言を出した(写真:AP/アフロ)

またもテロの悲劇が襲った――。

4月9日。エジプトの北部、地中海に面した大都市アレクサンドリアとナイルデルタにある都市タンタで、コプト教会の復活祭礼拝を狙った自爆テロ事件が起こった。死者は40人以上、負傷者は120人以上。「イスラーム国 (IS) エジプト」が犯行声明を出した。

コプト教会はエジプト生まれのエスニックなキリスト教会を指す。5世紀にイエスの神性と人性をめぐる論争の中、コプト教会は神性のみを認める単性説として、神性と人性の両方を強調するカルケドン派キリスト教(その後カトリック、ギリシャ正教、プロテスタントに分岐する)に、”異端”として追放される。7世紀にエジプトはイスラム教に征服された。

同教会はイスラム教支配下で苦難の時期を迎えるが、現在でも人口の10%を占めると報道されている。著名人にはガリ第6代国連事務総長(2016年に93歳で死去)がいる。

ISが狙ったキリスト教の神聖な期間

2件のテロ事件は、クリスマスと並ぶキリスト教2大祝日である復活祭の、1週間前の聖枝祭(イエスのエルサレム入場記念日)を標的にした。いまやイスラム過激派の代表格になったISが、エスニックな存在とはいえ、キリスト教会を神聖な期間にタイミングを合わせて実行した凄惨なテロ事件として報道され、世界に衝撃を与えている。タンタにあるコプト教会内の自爆テロは、死者29人、負傷者69人に及んだ。事件前と直後の教会内部の動画がCNNニュースでネット配信されたが、その凄惨さに息をのんだ人も多いだろう。

4月10日付のウォールストリートジャーナル紙(WSJ)は、「なぜエジプト政府はキリスト教徒少数派を守れないのか?」と、エジプト政府の手ぬるい姿勢を非難する社説を掲載した。海外からの厳しい批判を受け、シーシ・エジプト大統領は、直ちに「非常事態」を宣言。期間は3カ月だ。教会や政府関連施設を厳重に警戒するなどの処置を取る。

犯行を声明した「IS エジプト」は、「ISシナイ支部」を自称していたグループと推測される。もともとアラブ文明の中心地であるエジプトには、ISやアルカイダを名乗る過激派テロ組織はなかったはず(あっても少数派)。エジプト国内で広範囲に根を張り、民衆に支持されていたのは、「ムスリム同胞団」である。ムスリム同胞団は1928年、ハサン・バンナーによって設立された、穏健なイスラム原理主義運動といえる。

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