暴走北朝鮮を封じるには経済分析が不可欠だ 為替も物価も「二重構造」の歪んだ経済実態

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このため、外貨交換所では北朝鮮住民には市場レートで換算されたウォンで交換できるようになり、外国人には公式レートを適用する、あるいはそのまま外貨を使用できるようになっている。こうなると、おのずと内国人もドルや人民元、日本円などを直接使用する機会が増えてきた。

商売人であれば、多ければ5種類の通貨、すなわち北朝鮮ウォン、ドル、人民元、日本円、ユーロなどを一緒に持ち歩くほどになったのだ。

このように、今の北朝鮮では市場レートによる国内の通貨取引が日常化した。一方で、海外投資家が投資する際には、公式レートを適用させている。外資とビジネスを行うには、ほぼ外国人投資家が資本を投資し、北朝鮮側が建物と人力を提供するという分担になる。

この際、双方が50対50の投資比率となれば、たとえば外国側が10万ドルの資金を投入すれば北朝鮮も10万ドル相当の建物を提供することになる。ところが、公式レートで建物などの価格を計算すれば、市場レートで換算した場合の80分の1程度になり、そのぶん為替差益を残すことができる。

外国との合営企業に勤務する労働者の賃金も、北朝鮮側でドルで受け、北朝鮮ウォンで支給することも、同じ理由から判断できる。たとえば、2016年に閉鎖された開城(ケソン)工業団地の労働者が北朝鮮ウォンで4000ウォンの月給を手にすれば、公式レートでは40ドル程度になる。

しかし、市場レートでは月0.5ドルに過ぎない。北朝鮮当局は労働者1人当たり月35.5ドルの為替差益を受け取ることになるわけだ。そして北朝鮮当局は、4000ウォンで生活できるように開城工業団地の労働者に国定価格基準の物資を購入できるクーポンを提供すれば、労働者は物資を購入して市場で販売するなどして生活費を補充できるのだ。

国定価格と市場価格

物価における国定価格と市場価格はどういうものなのか。

国定価格は主に、行政職公務員に配給する生活費やコメの価格に適用される。しかし、当局から一律的に配給するシステムが事実上崩壊した現在、国定価格の意味はずいぶんと希薄になった。今ではコメや月給は、大部分が国家ではなく、各自が所属する機関から支給されるが、これらはすべて市場価格基準で支給される。

言い換えれば、月の生活費がコメの価格40ウォンに合わせて支給されるのではなく、1ドル=100ウォンという公式レートを適用すれば、コメの1キログラムの価格は0.4ドルになる。市場ではコメ1キログラムが5000ウォン程度だが、ドルで換算すれば0.6ドル前後になる。1ドル8000ウォンという市場レートが適用されるためだ。これが可能となる理由は、卸商らの見えない手が作用するためだ。

各地域の卸商は日々、互いに電話しながら、時々刻々と価格を点検する。当局が主導するのではなく、市場が中心となって価格を形成していくことになる。一般の承認たちも価格に敏感であるため、市場レートを毎日点検し価格を決めていくといいう。事実上、北朝鮮の市場レートは変動相場制といっても過言ではない。特に、人民元に連動しているような状況だ。

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