稲穂:たとえば最近、高級時計の「フランク・ミュラー」とそのパロディ商品である「フランク三浦」の争いが話題となりました。これは単に「フランク三浦」という文字商標の登録を無効にした特許庁の判断が裁判で否定されただけなのに、外観の類似したパロディ商品に対して最高裁がお墨付きを与えたかのような誤解も広がっています。今回の本では、知的財産権のことを全体的に理解してもらったうえで、ここは注意するべき、ここは気にしなくていい、などのある程度の目安を示したかったんです。
木本:ところで、自分の仕事のうえで興味があるのでぜひ聞きたかったのが、志村けんさんの「アイーン」についてです。もともと志村さんは言葉を発していませんでした。手をあごのところに水平にもっていくしぐさ、いわゆるマイムだったんです。吉本のバッファロー吾郎の木村さんが勝手なイメージで「アイーン」と言っていたら、そっちのイメージが浸透してしまった。世間が認知して、一周回って志村さんご本人が「アイーン」と言い出したんですよ。万が一、争いが起こったらその権利はどこにあるんでしょうか。
稲穂:そもそもの話として、志村けんさんのポーズも「アイーン」というセリフも著作物とはいえない可能性が高いように思います。
木本:「アイーン」は芸術ですよ! 著作物じゃないんですか?
稲穂:「お前はクビだ」の首切りポーズと似ているところもありますし、数秒間だけの一発芸に著作物性を認めるのは難しいと思います。
「欧米か!」に権利を与えたらとんでもないことに
木本:お笑いのギャグ、パロディは著作権が認められるところまでは至っていないと。
稲穂:もちろん、ある程度の長さのあるものや、短くても創作性が肯定できるものであれば、著作物性が認められることもあるでしょう。ですが、一般的には一発芸はさすがに苦しいと思います。ちょっと古い例となりますけど、たとえば「欧米か!」のフレーズを誰かが独占できるとしたらとんでもないことになるとは思いませんか。
木本:タカアンドトシですね。一般の人がやってもおもろないけど、彼らがやるから芸になっているんですよ。
稲穂:それはそうだと思います。権利で独占などしなくても、タイミングも含めて簡単にはまねできないからこそ、芸なわけですね。誰もが同じことをやって同じくらいの笑いが取れるのであれば、そもそも一流とは言えないんじゃないかという見方もできると思います。
木本:おっしゃることはわかります。「欧米か!」を素人が普通に使っても面白くないです。ゴッホの絵を誰もが描けないのと一緒なんです。それを僕は強く言いたいですね。
(構成:高杉公秀)
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