稲穂:その気持ちはわかりますが、著作権は「表現」を守る権利です。誰かに「アイデア」を独占させてしまうと、後の新たな創作を妨げ、その結果として文化の発展を阻害することにもなりかねません。そのため、「アイデア」は自由に利用できるようにしているんです。
木本:ゼロから1にするのが産みの苦しみで難しいと思います。でも表現は1あるものを10にする行為じゃないですか。知的財産権においては後者のほうが守られるんですね。
パックマンはアートだった?
稲穂:残念ながら著作権の考え方だとそうならざるをえません。ですが、同じ知的財産権でも、特許権の場合は事情が異なります。今までにない新しい技術的なアイデアについて特許権を取ることができますので、一定のものに限られますが、アイデアを法的に保護することが可能です。
たとえば、ロールプレイングゲーム『ファイナルファンタジーⅣ』で登場した「アクティブタイムバトル」という、時間の流れを戦闘の流れに沿って調整できる仕組みは、スクウェア・エニックスが特許を持っていました。ゲーム自体が全然違う「表現」となっていれば著作権侵害とはなりませんが、ゲームに「アクティブタイムバトル」と同じ仕組みを採用すると、特許権侵害となるわけです。実際に、この特許の存続期間が満了するまで、他のゲームメーカーは類似のシステムを作ることができませんでした。
木本:アーケードゲームの『パックマン』も本に登場しますが。それはまた別の話でしたか。
稲穂:そちらは著作権の話ですね。1980年に『パックマン』の海賊版が出たとき、ビデオゲームが著作物かどうか争われました。ナムコは『パックマン』は「映画の著作物」であり、海賊版がその「上映権」を侵害しているとして損害賠償を求める訴えを起こしました。東京地裁は『パックマン』が「映画の著作物」であることを認めて、海賊版の業者に対して損害賠償の支払いを命じました。
木本:ゲームソフトがアートとして認められた瞬間だったわけですね。
稲穂:現在では、ゲームソフトの映像部分は「映画の著作物」として、また、そのコードは「プログラムの著作物」として保護されるようになっています。また、先ほど申し上げたように、そのゲームの仕組みを特許権で保護することも可能です。つまり、「表現」を著作権で保護し、「アイデア」を特許権で保護するという、複数の知的財産権を組み合わせた複合的な保護を図ることもできるのです。
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