空前の日本食ブームの陰の仕掛け人 ウォルマートの棚を仕切る「食品卸」キッコーマン

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次は“ホーム”に挑むブームの仕掛け人

ライバルである日本の食品メーカーもその実力を認めている。キッコーマン同様、古くから海外展開し、食品メーカーとしては売り上げ・利益ともキッコーマンをしのぐ味の素でさえ、北米に複数の自社拠点を持ちながら、JFCの高度な物流網に自社商品を載せている。「きめ細かな物流網を持っているので、利用させてもらっている」(同社)という。

今年6月、JFCは本拠地のロサンゼルスに4000万ドルを投資し、最新鋭の物流センターを完成させた。米国内ではまだ珍しい常温、冷蔵、冷凍、超低温の4温度帯に対応する。「マグロなど水産物の細胞を破壊せずに保管するには、摂氏マイナス46度の超低温で保管しなければならない」と石垣良幸マネージャー。「受け入れ側の設備が十分でない」(同氏)ことがネックだが、こうした高度な設備が米国での差別化になる。

もう一つの強みがJFC独自の“パッケージ営業”だ。日本食を扱ってみたいという米国人バイヤーがいたら、JFCが独自に複数商品をパッケージにして、メニューの提案をする。ベトナム人が多い地域なら、ベトナム食品の割合を増やせばいい。白人が多い町ならどんな組み合わせが実績を上げているかをデータを基に提案する。1万アイテム以上を取り扱い、経験豊富なJFCだからこそ可能な提案営業だ。

世界の日本食卸で圧倒的な強さを見せるJFC。だが、この快走が続くかどうかの判断はまだできない。従来JFCから仕入れていた現地企業や中国系企業が、直接、日本食卸に参入する動きが出てきている。

またキッコーマンは、20年度までに東南アジアや中国、中近東、欧州、南米でも食品卸を展開する計画を掲げているが、ここではアメリカ進出時と同様の作戦は難しそうだ。中国などアジア地域はもともとしょうゆ文化圏。参入しやすいようで、実は参入しにくい。「価格が安いほうに引っ張られる可能性がある」と、茂木会長は懸念を示す。榎本JFC社長も「日本食のどこに魅力を感じてもらえるか。単純にコメ・みそ・しょうゆだけ持っていっても受け入れてもらえないだろう」と話す。

日本食ブームの陰の立て役者は、“ホームグラウンド”で、これまで培ってきたはずの実力を、最大限試されることになりそうだ。

(佐藤未来 =週刊東洋経済)

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