空前の日本食ブームの陰の仕掛け人 ウォルマートの棚を仕切る「食品卸」キッコーマン
しょうゆと食品卸 相乗効果生む二面作戦
キッコーマンの海外進出モデルには、2パターンある。一つはしょうゆを単体で売り込み、現地の食文化に融合させる方法。たとえば米国向け商品の「テリヤキソース」。現地の肉食文化に合わせてしょうゆをアレンジし、誕生した商品だ。もう一つが、コメや酒などの食材としょうゆをセットで売り込む方法。この後者を担うのが食品卸事業だ。
この二つの戦術は切っても切り離せない。最初にまず、しょうゆ販社を設立する。追って物流拠点を複数開設。当初は日本食レストランや中華料理店などを攻め、業務用中心にしょうゆの浸透度を高める。並行して、コメや酒をセットで売り込み、徐々に物流網を拡大させていく。
ある程度、新しい食文化が認識され始めたら、次は家庭の需要を掘り起こすべく、量販チェーンなど小売りチャネルを深耕に向かう。その際、しょうゆだけでは売り場面積を拡大しにくいから、食品も同時に売り込み、地域密着型のアジア食品ブームをつくり出す。最終的には、現地でしょうゆ工場を造る、といった手順だ。
昨今、欧米各国に沸き起こる日本食ブーム。根っこの部分を掘り返してみると、こうしたキッコーマンの世界戦略にぶち当たるのだ。
JFC自体の高収益体質も目を引く。たとえば国内食品卸首位の菱食の08年3月期営業利益率はたった0・4%だった。一方のJFCは5%。榎本博行JFC社長は「国土が広く物流費がかかるので、ハイマージンを取っているのは事実」としたうえで、「クオリティの高い営業で価格競争には巻き込まれないようにしている」と話す。日本のように、メーカーからのリベートで利益を補填することはしない。個々の単位で儲ける仕組みや価格体系を維持することを最優先している。
価格で勝負しない以上、ほかの価値が決め手になる。JFCの場合、その一つが物流網だ。現在、全米に18カ所の物流拠点を有する。
全米9店舗を展開する日系スーパー「ミツワ」。ロサンゼルス近郊、コスタメサ店の鈴木延和店長は「JFCの強みは拠点の多さ。広大で時差がある米国を網羅できていることが最大の魅力」と話す。