空前の日本食ブームの陰の仕掛け人 ウォルマートの棚を仕切る「食品卸」キッコーマン
米国ロサンゼルス近郊に位置するウォルマート・ローズミード店。広さ5500坪強、建物の半分が食料品売り場からなる。食料品売り場を10メートルほど行くと、「Asian」と書かれたプレートが見えてきた。消費者が手に取りやすい高さの“ゴールデンゾーン”には、おなじみのキッコーマン「丸大豆しょうゆ」や「減塩しょうゆ」が並んでいた。
キッコーマンは100カ国以上でしょうゆを販売する。海外6工場の生産能力は合計で年間20万キロリットル。一方、需要が頭打ちの国内は24万キロリットル。海外日本食ブームもあり、逆転するのは時間の問題だ。「アメリカでの一般家庭のしょうゆ普及率は50%」(茂木友三郎会長)といい、今では「キッコーマン」といえば米国企業と間違われているほどだ。
「健康」とアジア系人口増で取り扱い急拡大
当のキッコーマンは現在、連結営業利益の半分以上を海外で稼いでいる。海外しょうゆ事業の2008年3月期売上高は約500億円。営業利益は90億円近く、キッコーマン本体の同40億円強をはるかに上回る。同社にとって利益の源泉である。
だがこのビジネス、実は“縁の下の力持ち”が存在する。
もう一度、ウォルマートの陳列棚に場面を戻そう。コメ、みそ、カップ麺、ハウス食品のカレールーや味の素の本だし、山本山の海苔……。日本のスーパーさながらの品ぞろえに、韓国や中国、東南アジア系の即席麺や調味料、缶詰など、500種類以上の商品が、ぎっしり並んでいる。実は、このアジア食品売り場の管理を任されているのが、キッコーマンなのである。正確には、ロサンゼルスに本拠を持つキッコーマンの子会社、JFCインターナショナル(JFC)が担っている。
JFCがウォルマートのカテゴリーアドバイザーになったのが04年。「健康」をキーワードに日本食ブームが巻き起こり、アジア系人口の増加も背景に、ウォルマートはアジア食品に本腰を入れた。JFCは全米のウォルマート2500店のアジア食品売り場を一手に引き受けている。「日系企業でウォルマートのカテゴリーアドバイザーを任されているのは、JFCだけ」。担当のポール飯山マネージャーは胸を張る。
アジア食品専門の卸会社として、全米最大規模を誇るJFC。ウォルマートとの協業が本格化してから、食品メーカーからの引き合いも急拡大した。取り扱い商品は現在1万アイテム。もはやJFCにとって、親会社であるキッコーマンのしょうゆは「品ぞろえの一つにすぎない」(飯山氏)ところまで成長した。
キッコーマンの海外事業は、この食品卸抜きには成立しない。食品卸の営業利益率は5%。しょうゆの同18%には到底かなわないが、売り上げ規模では同事業を圧倒する。
日系の食品卸会社だったJFCをキッコーマンが買収したのが1969年。すでに自前のしょうゆ販社をサンフランシスコに持ってはいたが、「しょうゆは地味に需要開拓する必要がある脇役の商品」(染谷光男キッコーマン社長)。自前販社の営業力だけでは限界と判断し、日本の食材とセットで現地にしょうゆを売り込もうと考えたのだ。
そこに、75年のベトナム戦争終結が思わぬ援軍をよこした。参戦の見返りにグリーンカードを与えられた韓国人やフィリピン人、カンボジアやベトナムの難民が米国に押し寄せたのだ。アジア系人口とともにアジア食品の需要も急拡大。現在、米国のアジア食品市場は5000億円超の規模に達したとみられている。