オリンピックや世界選手権に出場するという「夢」をかなえるためなら、国籍を変えることもいとわないアスリートがいる。サッカーのブラジル人選手、卓球の中国人選手、長距離・マラソンのケニア選手などがそうだ。
スポーツの世界では、国際大会で活躍することよりも、母国の代表になることのほうが難しい国が存在する。自国ではライバルが多すぎるがゆえに、故郷を捨てて、勝てる道を選ぶ。国際大会に出場することが、アスリートとしてのブランド力(報酬)につながっていくからだ。
理由は少し違えども、”騒動”が大きくならなければ、ランナー・猫ひろしもオリンピック選手になっていたかもしれない。1年ほど前のことなので、多くの方が記憶していると思うが、猫はカンボジア国籍を取得して、本気でロンドン五輪の男子マラソン出場を狙っていた。国籍変更後も日本を拠点にトレーニングを重ねて、昨年2月の別府大分毎日マラソンで2時間30分26秒の自己ベストをマーク。同国のオリンピック代表入りをアピールした。
そして、思惑どおりにロンドン五輪のカンボジア代表に選出されたのだ。しかし、IAAF(国際陸上競技連盟)から「過去に国際競技会での代表経験がない」「ロンドン五輪開催時で国籍取得から1年未満かつ連続1年以上の居住実績がない」との理由を突き付けられ、猫の挑戦は失敗に終わった。
失敗から、猫が得たもの
ただ、国籍取得の問題以外にも、猫にはオリンピアンになるだけの実力が足りていなかった。IAAF(国際陸連)はロンドン五輪の男子マラソン参加標準記録をA(2時間15分00秒以内)とB(2時間18分00秒以内)の2段階で設定。A突破者が複数いる場合は各国最大3名まで出場でき、A突破者がいない場合に限り、B突破者が1人だけ出場できるというシステムになっていた。
猫の自己ベストは2時間30分台で、参加標準記録Bにすら12分以上も届いていなかったのだ。本来ならば、選手としての参加資格はないが、競技内すべての種目でB標準が突破できなかった国は1人に限り、どの種目でもエントリーできるという特例がある。
マラソンを含めて陸上競技が盛んではないカンボジアでは、誰も参加標準記録をクリアすることができなかった。カンボジア人のささやかな夢の「1枠」を、帰化したばかりの〝芸人ランナー〟に与えたところで、カンボジアの陸上界が好転したとは思えないが、この騒ぎが猫にとってはプラスになったともいえる。
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