「解雇の金銭解決」が奏効したイタリアの実情

類似した社会構造を持つ日本は多くを学べる

イタリアからみれば「外資」である日本企業にとっても、実際に解雇規制緩和の影響が大きく認められています。特に、ロンドンや日本に本社機能を置くグローバル日系企業の場合、新規投資を行う際に、人員コストを含めてコスト見通しを説明しやすいのが大きいようです。今後、イタリアでは採用面のコストリスクが大幅に低下したので、「今後は新規事業に積極投資できる」と語っていたのが印象的でした。 日本企業を含む外資系企業にとっては、おおむね好印象の改革となりました。

また、実際に現地の日系企業にヒアリングしたところ、解雇の金銭解決制度があるからといって、無用な解雇はいっさいしないそうです。無用な解雇を乱発すれば、労働者の反感を買うため、理解を得られるようにできるかぎり説得するというイタリア文化に根差した改革姿勢が、極めて日本的かつイタリアにもフィットしていました。

一つひとつの企業ではなく、労働市場全体で雇用維持を考えるという発想は、日本でも広く共有されるべきではないでしょうか。終身雇用・年功序列が崩壊し、名だたる企業でもリストラや経営統合の話が絶えないこの激動の時代にあって、ひとたび安定した正社員に就けば一生安泰であるという考えは、現時点ではほとんど「幻想」に近いといえるでしょう。そうした考えが根強いかぎり、若い人や経験が浅い人、非正規雇用者たちの仕事の機会は増えることはありません。高度経済成長期の終身雇用はもはや「幻想」なのですから。

もはや正規・非正規という対立の時代ではない

現代の世界では、AIの進化、IoT、不確実性を増す世界情勢など、仕事自体の存在、存続性が限りあるものになっています。これはグローバル化により必然的にもたらされるものであり、「良いか悪いか」という問題ではありません。

そうであれば、限られた仕事の機会をいかに公平・公正に分け合うかが重要ではないでしょうか。もはや正規・非正規という対立の時代ではないのです。このような、話し合いは労使の間ばかりでなく、労働者の間でも行われるべきだと考えています。日本では「解雇規制緩和ダメゼッタイ」というところで議論が止まってしまっているのが極めて残念です。

日本においても「終身雇用」という言葉がやや時代錯誤になりつつあり、ひとつの企業に雇用保障を頼る時代はもう終焉を迎えています。最後に、イタリアの労働法改革に大きく貢献したマルコ・ビアッジ氏という労働法教授の話をしたいと思います。氏は労働法教授としてイタリアの硬直的な労働法を改革すべきであると唱え、実際に政治家となり活動し、改革を進めていました。

マルコビアッジ財団のモチーフ。氏は自転車に乗っているときに暗殺されたが、彼の意志を継ぐ自転車がライトで未来を照らすイメージでデザインされている(筆者撮影)

しかし、改革が実現するかという段において左派系テロリストにより暗殺されてしまうのです。その後、彼の意思を次ぐ労働法教授や協力者がマルコ・ビアッジ財団という財団を作り、労働法改革の活動を継続することにより、昨年の労働法改革が結実したそうです。日本においても、解雇規制改革について、表層的な議論だけで終わらせてはなりません。イタリア労働法改革の旗手であるマルコ・ビアッジ氏の意思を日本においても継承したいと思いを馳せるのも年始にふさわしいと考え、今回のテーマとしました。
 

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