そのため、イタリアでは、一度就職した労働者が転職する率が非常に低く、硬直的な労働市場となっていました。その弊害として、失業率が非常に高くなり、特に若年層については40%もの高水準となっています。スペイン、ギリシャに次いで、ポルトガルとほぼ同じという高い水準の失業率は、社会不安につながりうる事態です。
これまでの厳しい解雇規制では、企業にとってコスト見通しが立ちません。特に日本企業を含む外資系企業(当然ですが、日本企業はイタリアからみれば外資系です)にとっても、たとえば新規事業展開を狙ったとしても、事業に失敗した場合の解雇が難しければ、そもそもの投資に二の足を踏む企業が多くなってしまいます。
また、イタリアでは、労働訴訟に時間がかかっていました(2〜3年程度。平均1200日という話もある)。そのため、仮に判決で解雇無効となった場合、バックペイの支払いが膨大となるのです。イタリアは日本と同じく中小企業が中心で、高額の支払いを課せられると倒産リスクが大きくなること、海外企業にとってコストの見通しが立たないことが問題とされてきました。
そこで、解雇に対する考え方をシンプルにする必要があることから、昨年の解雇規制緩和に踏み切ったようです。特に、外資系企業にとっても、雇用者側が投資リスクを見積もれる(確実性を持つ)ようにすることが重要であるので、極めてシンプルな制度が望まれました。そこで、大幅な解雇の金銭解決制度(勤続年数に応じて最大24カ月) を導入したのです。ただし、差別的(不当労働行為、マタニティハラスメントなど)解雇は禁止とされています。
労働市場全体で雇用維持を考える
経済改革をするには、雇用の問題が最重要課題です。そして、雇用問題の1丁目1番地は解雇問題です。その際のベースとなる考え方は「フレキシキュリティ」と言われるものです(フレックス+セキュリティの造語)。この考え方は欧州で以前から提唱されている考え方で、その要点は、個別企業での労働については労働者保護が弱まるが、逆に労働市場全体においてみれば労働者の保護を強める、というものです。
単純に「解雇規制緩和は労働者の権利を侵害するものだ!」などと表面的な議論にとどまっていないことが、最重要ポイントなのです。 つまり、労働者の保護はひとつの企業が面倒をみるのではなく、労働市場改革をしつつ労働市場全体でみるという発想です。
言うまでもなく解雇規制緩和最大の弱点は、労働者の保護が弱まる点です。しかし、これは個別企業での話であって、労働市場全体でみたときには決して保護が弱まっているわけではないという政策を実施することが大事なのです。具体的にイタリアの例をみますと、ハローワーク機能の強化により新規雇用先を探す労働者の支援を手厚くすること、失業手当の拡充、労働基準監督署の強化などです。ただし、注意点としては、労働市場改革のみでは新たな雇用の発掘にはつながらないということです。この点は昨年、イタリアへ現地調査に行った際に、労働省の担当者か何度も強調していました。つまり、市場の状況に即した経済対策と解雇規制改革をセットで行うことがポイントだということです。
また、税制・社会保障費の観点から、雇用増・維持を行った場合のメリットを与えることも重要です。「安易な解雇は経済的に損」とすることにより、本当にミスマッチで多少の金銭をかけてでも解雇したいケースに絞らせるような政策を採っていました。仮に、解雇規制緩和がなされたからといって、安易な解雇をし続ける企業は、国内市場からの信任を得られないでしょう。
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