しかし、何事も計画どおりに行かないものだ。ここ数年、天候の変化が激しく、予測がつかないことが多いのはご存じだろう。たとえば夏場に暑くなりすぎると、牛は体調を崩し食欲をなくすため、お乳を出す量が減ってしまう。それに加えて今年は熊本で大規模な地震があったり、台風10号の影響で北海道や岩手などの酪農産地もダメージを受けた。こうしたことが、生乳生産の計画を狂わせ、不足に陥る。
興味深いのは、バター不足が起こった年にどの程度の生産量の減少が生じたのかということだ。「全生産量の10%くらいが減ったのだろう」と思われるかもしれないが、そうではない。たとえば2014年のバター不足はたったの1~2%の減産で発生した。つまり、そうした絶妙なバランスのうえで、生乳は生産されているということなのだ。
さて、出荷された生乳はいったん乳業メーカーの大きな貯乳タンクに貯められ、そこから用途に応じて分けられ、製品になっていく。このとき、飲用の牛乳になる場合と、バターや生クリームといった加工品になる場合とでは、買い取り価格に差が出るようになっている。加工用の買い取り価格は飲用より安く設定されているため、自分の出荷した生乳を加工用に回された酪農家にとってはたまったものではない。そこで、飲用になっても加工用になっても、生産者には公平な分配がされるように、加工用途に回った場合は補給金というものがついて生産者には支払われる。このことは前回の記事でも解説したとおりだ。
しかし、生乳の価格は公平にならされるとしても、生乳の用途別の分配は公平ではなく、飲用牛乳→生クリーム→チーズ→バター・脱脂粉乳という順番に優先されるようになっている。そう、バターはいちばん最後なのだ。だから、計画数量から1~2%ズレてしまっただけでも、バター不足が発生してしまう。つまり、先に述べたような理由で生乳が計画より不足すると、しわ寄せがバターに来てしまうというわけだ。
不足しそうな場合は「輸入」で乗り切る
生乳を増やすためには、乳を出すことができる母牛を増やさなければならないわけだが、メス牛が受精してから出産するまでは10カ月はかかる。したがって「今年は足りなくなるぞ!」ということがわかった時点で、なんとか増やそうしても間に合わない。この問題に関しても、解決のためのさまざまなチャレンジが行われてきたが、結果としてはどうすることもできない。したがって、足りない場合は海外から輸入しようということになる。もともとバターは生乳とは違って冷凍しても品質がほぼ変わらないので、都合がいいのだ。
もともとWTOの約束事で、日本は年間に生乳換算で13万7000トンの指定乳製品(バター、脱脂粉乳、ホエイ、バターオイルなど)を輸入することになっている。これをカレントアクセス輸入といって、履行しなければ提訴されてしまう可能性が高い。今年2016年はというと、1月の段階でこのカレントアクセス分の7000トンのバターを輸入しており、5月に6000トン、9月にも追加で4000トンの輸入をしている。需給は逼迫ぎみではあるが、おそらくこれで乗り切れるだろうという見込みだ。ただ、バターが最も使用されるのはクリスマスだと思う人が多いだろうが、実はそうではない。バレンタインデーのある2月がピークであるため、まだ予断を許さぬ状況ではある。
いかがだろうか、バター不足が引き起こされる原因はそれほど難しいものではなく、「余らせて捨てるようなことにしたくないから」という理由がベースにある。「もったいない」精神に満ちた日本人であれば、まあ納得できる理由なのではないだろうか。そこには特に陰謀めいたにおいはしない。
ただし、こうした制度は酪農家を保護する役には立っているものの、国民の「理解」によって支えられていることも事実だ。おそらくそこがいわゆる陰謀論が出てくる元でもあるのだろう。機会を改めてこの部分も解説したい。
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