中国の金融波乱は李克強首相の宣戦布告 金利急騰は、シャドーバンキング退治に向けた荒療治

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火に油を注いだのは、そこから先の人民銀行の対応である。「全体から見れば資金は余っている」として、資金供給を見送ったのだ。5月のマネーサプライ(M2)は前年同期比15.8%増で、今年の目標である13%を大きく上回った。この状況で、流動性の追加供給は避けたかったはずだ。

6月19日に開かれた国務院(内閣に相当)の会議で李克強首相は「資金のストックを活用し、実体経済へと誘導する」という趣旨の発言をしている。シャドーバンキングに回りかねない資金をこれ以上、供給するつもりはないというメッセージだ。国務院の一部門である人民銀行はボスの方針を忠実に実行し、金利急騰を招いた。

6月24日に人民銀行は「流動性は全体的に合理的な水準にある」として、金融機関に自己管理の強化を求めた。実はその裏で、人民銀行は一部銀行へ秘密裏に資金を供給していた。

金利高騰の影響で10社以上の企業が社債発行を見送る動きも発生。実体経済の足を引っ張ることを避けるための妥協だ。それが金融界に伝わることで、金利は急速に落ち着いた。

だが、株式市場、まして海外にはそんな情報は伝わらない。うち続く株価下落を止めるため、人民銀行は25日には一部銀行への資金供給の事実を公表して強硬姿勢を転換。ひとまず金融システムへの不安は収束しつつあるが、市場とのコミュニケーションの稚拙さを印象づけた。

上海の大手銀行関係者は「シャドーバンキングを標的にした背景には、地方政府の資金源を締め上げて中央の求心力を高める意図もある」とし、かつて朱鎔基元首相も取った手法だと指摘する。朱氏と同様に経済の抜本改革を掲げる李首相にとって、今回の波乱はその第一歩なのだろう。従来型の高成長を求める地方政府を押さえ込み、経済構造を転換できるか。これからが本番だ。

(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年7月6日

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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