厳しすぎる「教育困難校」生徒の高卒就活事情 希望を諦めさせることも、教師の仕事になる

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そんな高校生たちでも、曲がりなりにも就職試験の舞台に上がれるように、あらゆる面から教師は指導をしていく。商業・工業・農業などの専門高校は「教育困難校」同様、就職希望者が多いが、そこの生徒たちは高校進学の際にすでに働くことを意識している。そのうえ、高校では「その分野で働くこと」の基礎を学んでいるし、インターンシップや学校行事などを通じて、働いている人と接触する機会も多い。だから、「教育困難校」よりもずっと指導は楽だ。

これに対して、教育困難校では、まず「働くこと」のイメージを、漠然とでも持たせることから始める必要がある。今どきの高校生はバイトをしているから、「働くこと」のイメージは持っているはずと思う人も多いだろう。しかし、「教育困難校」に通う生徒の第2タイプ、つまり「無気力系」の生徒たち〔各類型の詳細については「教育困難校には、どんな生徒がきているのか」を参照〕は、バイトすることを考えもせずに高校生活を送り、親や周囲の人に言われてひっそりと「就職希望」と言ってくることが多い。

また、第3のタイプ、「コミュ障系」の生徒たちのバイト実施率も、決して高くない。高校生のバイト先の大半は接客業であり、コミュニケーション力に自信のない彼らは、面接に落ちてしまうからだ。採用されるバイトは、バックヤード作業や、商品の出し入れなどに限定される。一方、第1の「ヤンキー系」はバイト実施率が高いが、大抵は先輩の紹介で決まったバイトをしている。いずれにせよ、「働くこと」の全体像が少しでもわかるような体験はほとんどしていない。

高校生の就職活動

読者の方々はご存じだと思うが、高校生の就職活動は、大学生や専門学校生とまったく異なる。生徒が未成年なので、学校がハローワークから業務を委託され、学校を通して関係書類や事務連絡をやり取りする。高校3年生の就職活動は、毎年9月初旬に書類の送付、中旬に採用試験が行われ、1回目の試験は1社しか受けられないのが、このところの慣習だ。

このスケジュールに合わせて、高校3年の春から準備が行われ、7月になると求人票開示、会社見学、履歴書指導、面接指導といった活動が本格化する。だが、この流れについてこられる生徒は、就職希望者の半数に満たない。「どうせ、この学校の生徒なんか就職できない」とか「教師にいろいろ言われるの、めんどくせー」と思い、まったく動かない生徒が多いのだ。第2タイプ(「無気力系」)の生徒の中には、周囲の動きにまったく関心を持てない生徒もいる。

そんな状況の中で、教師は就職活動に何とかついてくる生徒の指導に奮戦する。もちろん、求人票の見方や、面接の基礎動作などは2年生から指導しているが、高校生には就職活動の大変さが実感できない。直前にならないと真剣になれないのは、人間の常である。再度、最初から指導を繰り返すしかない。

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