厳しすぎる「教育困難校」生徒の高卒就活事情 希望を諦めさせることも、教師の仕事になる

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それでも、7月から動ける生徒は、まじめに指導に従ってくれる。求人票を見る生徒の傍らに教師がいて、彼らといろいろと話していくと、だんだん生徒の顔に真剣味が増してくる。ここ数年は、高卒生の求人票が増え、内定率が上がっていると報道されている。しかし、求人倍率は東京など高いところもあるが、全国平均は2.04倍にすぎない(厚生労働省 2016年5月20日発表)。これをもって、高卒の就職状況が改善したと断ずるのは誤りだと思う。その求人には、いわゆる非正規社員の求人も含まれている。

さらに職種では建設業、介護関係、外食関係の求人が圧倒的に多い。高校生が望む事務や製造の職種は、創立から伝統のある専門高校からの応募に限られ、そこに割って入るほどの力のある生徒は、「教育困難校」にはほとんどいない。かなり以前から、インターネットで全国の求人票が見られるようになっている。これは、求人数が少ない地方にいる、強い就職希望を持っている生徒には有効だ。

しかし、今どきの高校生は、大体が「地元」志向である。特に「教育困難校」の生徒には、その傾向が強いので、遠方の求人にあえてチャレンジしようと考える人は少ない。

限られた求人から、ここに行きたいと強く思える企業を選ぶのは非常に難しい。進路指導の建前では、自分の性格・適性に合った企業を選びなさいと言っているが、現実には、これはほとんど不可能だ。「スポーツにかかわる仕事が向いているって検査で出た」「事務職に就きたい」「定時の勤務がしたい」「土日休みがいい」といった生徒の希望を、一つひとつあきらめさせるのが教師の仕事である。この過程を通して、「自分が働く際に、何がいちばん大事な条件か」を考えさせていく。求人票を送ってくれる企業には申し訳ないが、ほとんどの場合、第1志望企業は生徒の妥協の産物なのだ。

求人票に書かれている仕事内容がわからない

ここまでの過程で、生徒と教師が頭を抱えることがある。それは、求人票に書かれている仕事がわからないということだ。生徒が入手する仕事関係の情報は、せいぜい、テレビドラマで出てくる仕事とバイト先でのうわさ話程度だ。また、昔から言われているように教師も世間を知らない人が少なくない。

そのため、求人票にある「ダイカスト」「プレカット工法」「圧接」と言った言葉の意味がわからず、仕事のイメージがつかめないのだ。もちろん、指導熱心な教師は自分の無知に気づき、ネットで調べたり、直接企業に尋ねたりする。しかし、仕事内容がわからないまま、本当はよい職場なのに、生徒が選べず、教師も勧められない可能性もある。

理想を言えば、高校に来る求人の仕事内容がわかるように、企業と高校の交流が日頃から図られるべきなのだろう。人事担当者に何度か会えば、教師にも会社の雰囲気もわかるだろうし、企業にも生徒の実像が伝わる。しかし、今の日本では、これから社会人となろうとする高校生のためにそこまで行う余裕は、企業にも学校にもないようだ。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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