未知のデザインに挑む、ジョブズの右腕 アップルをアップルたらしめる、デザイン哲学

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シンプルさとは、何か

製品はどこから見ても美しくなるよう考えられ、何十分の1ミリの単位で計算されている。かたちだけではない。素材の厚み、その光沢の加減、ライトが点滅するスピード、その色、手に持ったときの感触、ボタンの大きさ、それを押したときの音。すべて、本当にすべてがアイブの関心の的なのである。

また、アイブのトレードマークとも言えるシンプルなデザインも、あらゆるものを研ぎ澄ませていった追究心の賜物だ。彼はこう語る。

「シンプルさとは、単にゴタゴタしていないということではありません。シンプルさとは、そのモノ、その製品の目的とあるべき場を本質的に描き出したものなのです。ゴタゴタを取り除いた製品は、ただゴタゴタのない製品であるだけで、それはシンプルさとは違う。シンプルさは、モノ作りのプロセスを貫いて追究されなければならないのです。それだけ、根本的なものだということです」

アイブが生み出す製品は、空虚なシンプルさではなく、あらゆる意味が込められ、それでいてそのモノの本質を表現するシンプルさなのである。

ハードからソフトウエアへ

ジョブズの生前は、「製品デザイン部門担当の副社長」だったアイブは、現在、「デザイン担当の上級副社長」となった。ハードウエアのデザインだけでなく、ソフトウエアのインターフェースデザインや使い勝手なども統括するポジションだ。

先立って発表されたiOS7から、アップルはスクリーンのデザインに手を入れ始めたが、それはこれから続くアイブによる新しいインターフェースデザインの第一歩である。ハードウエアのデザインで見せたシンプルさとディテールへのこだわりを、ソフトウエアでも見せてくれるのか。今後、未知の驚きが待っていることだろう。

母国イギリスで「サー」の称号も与えられたが、アイブは目立つことが嫌いな人間だ。スター・デザイナーがセレブのように振る舞う世界で、アイブは腰が低く、ごく普通人としてあり続けている。そして、目の前の仕事に没頭する。ことデザインの話題になると、一生懸命に話す。

真の実力者とはかくありなん、と思わせるのである。

 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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