過去のデータからは、未来を予測できない
たとえば鉄道交通系は平均勤続年数が長いが、別にこれは社員の幸福度の指標になるわけではない。勤続年数が長くなるのは、単に独占的なインフラ産業で安定性を好む人たちがそもそも入っているからであり、入口の段階で入社する人のタイプがかなり限られており、冒険好きのあなたには、全然フィット感がないかもしれない。これは長らく安定産業で知られてきた電力系の会社にも同じことが言えるだろう。
しかもこの過去の数字には、将来代替エネルギーに市場を持っていかれたり、原発事故で大リストラを余儀なくされたり、電力料金の値下げ圧力がかかったり、といった将来のリスクは反映されていない。
またかつては長期雇用ができたが、今後産業の競争度が上がり、過去の平均勤続年数が未来を全然予測しない業界も多い。例えば今は平均勤続年数が長くても、今後短くなっていくと思われるのが競争が激化している小売りや百貨店である。明白な残存者利益のとれるコンソリデーターでもない限り、今後ますます労働者のマージンが搾り取られる業界ではないか。またグローバル競争にさらされ、海外勢に押され気味の電機機器メーカーに関しても同様の展開が予想され、競争環境のボラティリティが高くなるにつれて勤続年数や職業の安定性のリスクは高まるだろう。
さらに独占的な国営企業であった通信会社のように、親方日の丸体質の民営化企業でも、これまではぬくぬくとやってこられたが、あのNTTドコモが急速にソフトバンクなどに市場を持っていかれているのを知らない人はいない。またこれら民営化された企業の競争環境が激化し、ため込んだキャッシュ(株主にとってはエージェンシーコストの源泉、社員にとっては不況時のバッファでもある潤沢な金銭)が縮小していき、給与や雇用に手を付けざるを得ない日も来ることであろう。
新聞社各社の勤続年数も長いのも、規制で守られてきた産業で報酬が高い人気職業だったからだ。しかし、新聞のビジネスモデルが大きな挑戦を受ける中、この職業の安定性も保証できない。
加えて、本来なら大量にリストラしなければならないのだが、バランスシートを削って、また利益を犠牲にして、かつ政治力で公共投資に頼って長期雇用を今まで続けられてきた建設業界なども、現在の過酷な競争環境を見るに、将来にわたって長期雇用が維持できる業界とは思えない。結局の話、あまりにも当たり前の話で申し上げるのが恐縮なのだが、過去に勤続年数が長かったということは、その業界や会社が未来においても長期の勤続年数を保証するわけではまったくないのである。
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