ブラック人材にはブラック企業がお似合い? ブラック企業を恐れるより、ホワイト人材を目指せ

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 グローバル化の進展により、国の枠を超えて活躍する「グローバルエリート」が生まれている。しかし、そのリアルな姿はなかなか伝わってこない。グローバルエリートたちは何を考え、何に悩み、どんな日々を送っているのか? 日本生まれの韓国人であり、国際金融マンとして、シンガポール、香港、欧州を舞台に活動する著者が、経済、ビジネス、キャリア、そして、身近な生活ネタを縦横無尽につづる。
長く働ける会社が、よい会社とはかぎらない。(撮影:尾形文繁)

 ボンジュール、皆さんいかがお過ごしですか?

さて、最近の学生の就職希望先は“安定志向”が目立ち、長く勤められる会社とやらを志望基準に上げていることが多いのに驚く。彼らは大抵、他にも引手あまただが厚遇されるので結果的に長期間そこで働く、というより、いったん入社したらクビにしない会社なので長く働ける、という状態を目指していることが多い。

そういう会社に長らくいると自分自身の流動性がなくなり、就職マーケットでディスカウントされるのをわかっていないのは残念だ。金融市場の株式と同じで労働市場で流動性がなくなることは自分自身のバリュエーションが低くなる主要要因の一つであり、適切なリスクヘッジは固定化したポジションに居座ることではなく自分の流動性を高めることである。

長期間の同一会社での勤務に関して言うと、その会社での適性があり他の人よりありがたがられ、会社側からプレミアムを払ってもらえる、という状態こそ望ましい長期勤務である。しかしながら “他の人より安くてもずっと働いてくれるから雇ってあげる”というブラック企業と、“努力しなくてもクビにならない”ことを目指すブラック人材の悲しいせめぎ合いが行われているケースも散見される。今回のコラムでは単に長期間安心して働ける、という理由だけで仕事を探すことがどれだけ危険なことなのか、フランスの彼方からぶつぶつ語らしていただこう。

世間知らず・自分知らずの新卒

さて、最近政治家の中で、ブラック企業の社名を公表するかの議論がなされているようだが、「働き続けられる企業かどうか」がブラック企業選定の基準の一つになっているらしい。そのために平均勤続年数を見ようというランキング記事が、われらが「東洋経済オンライン」に掲載されていたが、今回ばかりはグローバルエリート、愛する「東洋経済オンライン」に牙をむく所存である。

なぜなら、平均勤続年数が長いことが幸せなキャリアや“いい会社であること”を全く意味しないからだ。勤続年数が長いといっても、産業構造的に規制に守られてきたが今後はそれが保障されないケースや、単に他に移る能力が身につかず同じ会社にしがみつくしかないケースもある。

まず38年の人生の勤務時間の半分である19年でもって“社員が辞めない会社”という基準にしているようだが、いまどき19年も同じ会社で働く人がどれくらいいるだろうか。5年どころか3年単位でキャリアアップを狙って転々とする外資系の金融機関やコンサルティングファームを見てきた身としては隔世の感がある(ちなみに数年で辞める人が多いが、それはステップアップのスキルを身に着けたから、本当にやりたいことが分かったから、などの肯定的なケースも多く、会社側も卒業生として尊重してくれる)。

むしろこの変化が激しいご時世に、将来の動向や自分の適性を全然わかっていない新卒の皆さんが、その会社でしか通用しないキャリアやスキル、人間関係に19年も費やすのは極めて恐ろしい集中投資である。“何が起こってもいざとなったら自分に需要がある”というリスクヘッジの観点で見れば(絶対にそこでずっと幸せに働き続けられるという条件がないのなら)到底お勧めできるアプローチではない。

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