松下幸之助「リーダーには強い権威が必要だ」 権限は譲っても権威は保たなければならない

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部下に仕事をまかせる。いままで自分が持っていた仕事の、100のうち20を部下に渡せば、20自分の仕事にすき間ができる。その20でなにをするか。責任者は、そこで新しい仕事を創造せんといかん。責任者一人ひとりがそういうように新しい仕事をつくりだすとき、会社全体が大きくなる。発展するということになるんや。3つ目は、いうまでもなく、部下を育てる、人材を育成するという責任があるということやね。仕事をまかせるということは、部下を育てるということになる。「仕事の完成」と「新しい仕事の創造」と、そして「人材育成」と、その3つの意味において責任者というわけやな。

ところでいま、権限の委譲ということを言うたけどな。仕事をまかせるということやな。それは大事だと。けど権限を委譲しても、権威は委譲したらあかん。それがなかなかむずかしい。

仕事を部下にまかせると、それでどうするかというと、時間もできる、偉くなったような気分にもなる。ほんとうは、さっきも言ったようにそんな暇もないし、そういう気分になることもないのやけど、そこが人間や。部下が仕事をやっておるにもかかわらず、つき合いだといって、ゴルフに出かけたり、交際費は節約しろと言いながら、自分は夜ごと会社のカネで飲み歩く。遅刻したらあかんと言いながら、自分は遅れてくる。約束は守れと言いながら、自分は守らない。そういうことをすると、責任者として権威はなくなるんや。

権威というのは「人間としてなすべきことをなす」、「なすべからざることはやらん」と。そこに権威というものが生まれてくるんや。全体の仕事を仕上げたか、新しい仕事を創り出したか、部下を育てる努力をしているか、3つの責任を感じながらそういうことを、キチッとしておれば、部下のほうも仕事をまかせられて満足しつつ、責任者に心から敬意を表しながら、まあ、尊敬しながら努力して向上していく。そういうことをやらんと、だんだんと部下から軽く見られるようになって、いつの間にやら逆になってしまうな。

特に経営者は、そういうことを、よく心がけんといかん。部下は必ず大将のマネを、するようになる。「うちの社員は仕事をせん」とか、「うちのは出来が悪い」とかいう経営者がおるけど、結局は経営者自身が権威を維持しておらんとか、人間としてなすべきことをなしておらんとかということに尽きるな。

部下を褒めることは重要

部下はな、褒めんといかんで。ほめて育てるということを考えておかんといかんよ。

人間は誰でも、いいところと悪いところを持っておるもんや。きみでもわしでも、そのふたつながらを持っておる。けど、大事なことはいい面を見て、そのいい面を指摘して伸ばすようにすることやな。悪い面を見て、その悪い面を指摘して少なくするようにさせるのは、あまり効果はないな、わしの経験から。少し褒めるべきところがあれば、それをおおいに褒める。多少評価すべきところがあれば、評価する。そういうことが大事やね。

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