織田記念の10秒01について、桐生はレース後のインタビューで、「正直、ビックリしました。気持ちの整理がついていないです」と答えている。10秒01は狙って出したのではなく、「出てしまった」記録と言える。
決勝では山縣と日本選手権4連覇中の江里口匡史(大阪ガス)との勝負を意識。「タイムはどうでもいいので、勝とう」というレースを制したが、優勝タイムは10秒03にとどまった。追い風2.7mの参考記録(公認記録は追い風2.0m以下)で、タイムも予選のほうがよく、「レース終盤は(動きが)硬くなった」と桐生は振り返っている。
9秒台への期待が高まった5月5日のセイコー・ゴールデングランプリ東京では、海外から参加した9秒台スプリンターと走り、向い風1.2mの中で10秒40。日本人トップを飾ったものの、9秒85の自己記録を持つマイケル・ロジャース(アメリカ)に0.21秒差をつけられた。
桐生は6月7~9日に行われる日本選手権(7日に100m予選、8日に100m決勝)に出場するが、その1週間前にはインターハイの京都府大会(5月31日~6月2日)で、100m、200m、400mリレーをこなしている。また、日本選手権の4日後にはインターハイの近畿大会(6月13~16日)があり、最低でも3種目に出場予定という超過密スケジュールが待っている。「9秒台か!?」とメディアは騒いでいるが、コンディショニングの難しさを考えると、日本選手権での9秒台は現実的とは言えないだろう。
その仕事に「再現性」はあるか?
あるプロジェクトで大成功を収めたとしても、次のステージでも同じアプローチで成功するとは限らない。「たまたま」ではなく、成功の理由を自分で分析できているか。アスリートもビジネスパーソンも「再現性」のあるパフォーマンスができているかを、もう一度確認することが大事だろう。
“一発屋”の歌手や芸人がいるように、スプリンターも成果を出し続けるのは容易でない。スポーツライターとして、日本陸上界の歴史を踏まえて、厳しいことを書いてしまったが、17歳桐生の肉体的なピークはこれから。一陸上ファンとしては、桐生の実力が“本物”であることを信じたい。
10秒の壁に触れた伊東、朝原、末續の3人は卓越したセンスと大きな可能性を秘めながらも、高校時代は100mで“1番”になれなかった。しかし、大学を卒業してからも、着実にレベルを積み上げて、国際大会でも活躍した。伊東が10秒00をマークしたのは28歳のときだ。もし、桐生がこれから「再現性」の壁を超えたうえで、フィジカル面でのアップを生かしたスキルを身に付けることができれば、現時点では想像できないくらいすごいタイムが誕生するに違いない。
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