結果を見れば、単なるショートゴロ。相手野手のフィルダースチョイスが絡んで打点1が記録されたものの、特に話題になった打席ではない。
しかし、この一打にこそ、栗山巧(西武)のすごみが凝縮されている。
当連載で1度取り上げた栗山は、目標設定を的確にできる選手だ。一般的に「目標は短期、中期、長期で設定するべき」と言われるが、栗山はその3つを1本の線でつなげることができる。
5月14日、神宮球場。4連敗中だった西武は交流戦初戦で、ヤクルトと対戦した。試合は両先発が不安定な立ち上がりで、4回を終えて3対2でヤクルトがリード。5回表、攻撃の西武は9番・投手の十亀剣に代打で送った片岡治大がレフト前ヒットを放ち、1番・浅村栄斗のセンター前ヒット、続く秋山翔吾の送りバントで1死2、3塁。是が非でも同点にしたい場面で、3番・栗山に打席が回ってきた。
「最低限の犠牲フライでも、1点入って追いつきますね」
バックネット裏で一緒に観戦していた某球団の元選手に、筆者が話しかけた。
「栗山はそんなタマじゃないだろ?」
ヒットで2人の走者を生還させれば、チームは逆転する。左打者の栗山はセンターから左方向に打つ技術が高く、タイムリーヒット狙いと元選手は見ていた。
だが、栗山の思考ははるかに上をいっていた。
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