松下幸之助は「2つのものさし」を持っていた 経営の神様の「問わず語り」

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そうやね。国民と国家ということで考えたら、なお分かるやろうな。国民が大事で、国家はどうでもいいと考えると、実は国民が不幸になるわね。国民は国家によって守られているんやから。けど、国家が大事で、国民は二の次、三の次ということであれば、国家は結局成り立たんね。国民一人ひとりが集まって国家になっておるんやから、国民が二の次、三の次では、国は崩壊する。まぁ、国民も幸せ、国も繁栄。国民も国も大事とする考え方やな。とくに政治家は、そういうことを心してもらわんといかんね。

滅私奉公という言葉があるやろ。あの言葉は、あまりええ言葉ではないな。以前、人に頼まれて、その言葉を書いたことがあるけどな、ほんまは、わしの好きな言葉ではない。実際のところ、自分を犠牲にして、全体のために奉公するということは、どちらかと言えば、簡単なことやで。またそんな考え方をするのは、ほんとうは貧困と思うね、早い話が。自分も生き、全体も生きる。個人も繁栄するけど、社会も繁栄すると。そうするためにはどうしたらいいか、それを考えるのが、知恵ある人間の努力というものやないか。こっちのほうがはるかに難しいと言えるわな。けどそう考えんといかん。

まあ、人間はひとつだけの物差しを使って考えたほうが容易であるから、どうしてもそうなるわな。2本の、あるいは3本の、ということになれば、複雑になるから、なるべく1本の物差しで明快に考えようとする。しかし、わしの経験からして、物事そんな、簡単なものではないよ。だから大抵の場合、やり方を間違える。基本方針と個性というものは見方によれば相反する考え方と言えるが、そのいずれも、否定すべきもんじゃないわな。その両方をいかし活用するところに、会社というか組織が発展する秘訣があるんや。

人間はおもしろいな。たとえば船に乗っておって、右側ばかりに大勢の人が乗っておる。船が大きく傾いて、これでは、間もなく沈没してしまう。船長が、みなさん、右側ばかりに乗っておると、沈没してしまいますから、左側にも乗ってください、というと、今度はみんな左側にいってしまう。そして左側に船が傾いて、またまた沈没の危機に瀕するようなことをする。世の中は、この動きの繰り返しのように、わしには思えてならん。人間は本来、そんな愚かな存在ではないから、やがてだんだんと賢くなっていくやろうけど、賢くなるのが間に合わんということにならんように、個々それぞれが考えんといかんわな。

部下の話をよく聞いて知恵を集める

一杯お薄(うす)でも飲もうか。係の人に頼んでくれるか。

植木屋さんたちは皆、よう働いておるね。こういう植木屋さんも親方から、いろいろやり方を教えてもらったり、勉強したりするんやね。しかし、こういう仕事は本で習うより、実際にこういうところで、仕事をしながら勉強することが一番いいんやろうね。理屈ではない面が多いな。

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