物事そんな、簡単なものではないよ
きみ、ええか。物事は、右か左か、どちらかひとつで考えたらあかんで。なんでもそうやけど、たいがい相矛盾する考え方があって、普通は、そのいずれかひとつの考え方で、判断しようとする。けど、それは基本的にはよくないことや。
たとえば、社会というものを考えても、全体がなによりも大事とする考え方と、いや、そうではない、やはり個人が大事だという考え方と、ふたつあるとするわな。確かにそれぞれに、言い分はわかるけど、わしから言えば、その両方がともに大事だとする考え方でないといかんと思うな。そやないやろか。
全体のために個人が犠牲になるというのは、これはなんのための全体か、ということやね。個人が犠牲になるようであれば、そんな全体は作らんほうがええわな。けど、全体はどうでもいい、個人さえ大事にされれば、それでいいんだとすると、その個人は、いったいどこに立っておるんかということになる。
その社会におって、その上に立っておるんやから、それで自分が立っておる、いわば踏み台はどうでもいい、それが壊れても構わんというようなことは、おろかな考えと言えるわな。そやから、この場合、全体も大事、個人も大事というように考えて、その両方がともに具合いいようになる道を考え工夫せんとあかんわけや。
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