松下幸之助は「2つのものさし」を持っていた 経営の神様の「問わず語り」

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変えたらあかんものは変えん。変えるべきものは変える。その見極めが、経営においても大切なことやな
江口克彦氏のベストセラー『経営秘伝――ある経営者から聞いた言葉』。松下幸之助の語り口そのままに軽妙な大阪弁で経営について語った著書で、1992年の刊行後、20万部を売り上げた。本連載は、この『経営秘伝』をベースにしている。「経営の神様」の問わず語りは、多くのビジネスパーソンにとって参考になるに違いない。

物事そんな、簡単なものではないよ

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きみ、ええか。物事は、右か左か、どちらかひとつで考えたらあかんで。なんでもそうやけど、たいがい相矛盾する考え方があって、普通は、そのいずれかひとつの考え方で、判断しようとする。けど、それは基本的にはよくないことや。

たとえば、社会というものを考えても、全体がなによりも大事とする考え方と、いや、そうではない、やはり個人が大事だという考え方と、ふたつあるとするわな。確かにそれぞれに、言い分はわかるけど、わしから言えば、その両方がともに大事だとする考え方でないといかんと思うな。そやないやろか。

全体のために個人が犠牲になるというのは、これはなんのための全体か、ということやね。個人が犠牲になるようであれば、そんな全体は作らんほうがええわな。けど、全体はどうでもいい、個人さえ大事にされれば、それでいいんだとすると、その個人は、いったいどこに立っておるんかということになる。

その社会におって、その上に立っておるんやから、それで自分が立っておる、いわば踏み台はどうでもいい、それが壊れても構わんというようなことは、おろかな考えと言えるわな。そやから、この場合、全体も大事、個人も大事というように考えて、その両方がともに具合いいようになる道を考え工夫せんとあかんわけや。

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