それまでアリスが親しんできたヨーロッパの都市は、中世以来、城壁から動物や余計なものを排除し、整然と管理する方向で発達してきた。ところがメキシコシティには野良犬がゴロゴロしているばかりか、人間もあちこちで昼寝している。しかも物があふれ混沌としていた。彼の目にはそれが豊かなものに映った。
最初は一人の観察者として一定の距離をおいて都市を見ていたが、だんだんと介入するようになり、働きかけ、ときには批判的にもなっていった。
「都市ともっと即興的に、スピーディーに、直接的なかかわりを持つことができないかと考えたら、アートになった。建築はクライアントや予算との妥協が必要なので、時間がかかります。アーティストは短時間に、正確に、狙いどおりのことができるのです」
それでも、竜巻の中心が見てみたい
メキシコと出会えて幸運だったというアリスは、「30歳でアーティストになってよかった。もう20年間やってきたから、また別の仕事をしてもいいかな。迷っている人は、Don’t wait, just do it! リスクは想像しているほど大きくないと思うよ」と言う。
そのほかの作品では、詩的な映像が強い印象を残す『愛国者たちの物語』、そして『トルネード』が面白い。
アリスは竜巻の中心部をとらえようと、ビデオカメラを持って、何度も何度も竜巻に突っ込んでいく。10年にわたって竜巻に飛び込み続けた。理想を求めて困難に向かっていく人間の姿は、感動的でもあり、滑稽でもある。
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