同じように彼のアクションを撮影したのが『実践のパラドクス1(ときには何にもならないこともする)』だ。
アリスは四角い氷の塊を、ただひたすら押して歩いていく。氷が溶けてなくなるまで、9時間以上も街路を押し続けた。労働を終えても、彼の元には何も残らない。働くとはどういうことなのか。努力しても正当な対価が得られない社会を映していると見ることもできる。
建築家を魅了した、メキシコシティの”豊かさ”
こうした作品の舞台になっているのは、主にメキシコシティの歴史地区だ。会場入口で歴史地区の観光マップのようなパンフレットを渡されるので、解説を見ながら回るとわかりやすい。展覧会の構成は、初めてアリス作品を見る人のために、本人が入念に考えたのだという。
作品の中の姿と同じように、長身のアリスはコットンのパンツにコンバース、「ニューヨーカー」誌を抱えて記者会見に現れた。
1959年にベルギーのアントワープに生まれたアリスは、ヴェネチアで建築を学び、最初は建築の仕事をしていた。転機は1986年にやってきた。兵役の代わりの海外協力活動として、メキシコ大地震の復興のために働くことになったのだ。メキシコシティで作品を作り始め、30歳のときアーティストとしてデビューした。
彼にインスピレーションを与えたのは、メキシコシティという都市だった。
「ヨーロッパにいたら、建築の仕事を続けていたかもしれない。作品を作ろうと思ったのは、メキシコシティの文化のコードを読み解くことができなかったから。理解しようとする試みから作品が生まれたんです」
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