逆に「保険のことはよくわからないけど入っている」という人とお会いすることは、よくあることです。「親や知人が『入っておいたほうが良い』と言うから」と加入を希望する人も珍しくありません。
常識で考えると「よくわからないまま契約するのはヘンだ」「親や知人が保険の素人である場合、その人たちの真似はしないほうがいいはずだ」となりそうです。ところが、このように考える人はとても少ないようなのです。
保険は「ストーリーの力」で売られている
なぜでしょうか。保険について「落ち着いて考える」ことが難しいからだと思います。
キーワードは「ストーリーの力」です。私が思いついた言葉ではありません。長年、保険の商品設計に関わっている人と意見交換をする中、その人が発した言葉です。「ほとんどの保険はストーリーの力で売られていると思います」という見解を聞いたとき、急に視界が明るくなった気がしたのです。
たとえば、医療保険への加入は「入院すると、治療費のほかに食事代、交通費、日用品の購入などの諸々の費用がかかる。差額ベッド代がかかることもある。生活習慣病などで入院が長期化した場合、収入減や貯蓄を取り崩す不安も無視できない」といった理由ですすめられます。
「入院すると……」という想定がポイントです。歓迎したくない状況を設定しておカネの問題などを考え始めた時点で、保険会社が提供するストーリーに乗っているのだと思います。もろもろの不安と向き合うことになり、落ち着かなくなってしまうからです。
ストーリーはわかりやすいものです。
① 死亡・大病・入院・介護などの不幸な事態が起こる
② 金銭面での不安が増大・現実化する
③ 保険での備えが大切
この流れは、医療保険以外の保険でも変わりません。「あなたや、あなたの家族に何かあった場合、おカネが足りなくなると困るので、保険に入っておきましょう」という論法です。
テーマは「損失」で、保険は損失を補てんする「救済策」として認知されていますから、話の流れに馴染みます。しかし、馴染みが良いだけではないでしょうか。
ほんの少しゆっくり考えると、①~③の流れはかなり荒っぽいものであることがわかります。「保険に入ることが最善の策なのか」「保険に入らない、という選択は考えられないのか」という問いかけがなされていないからです。
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