では、オリンピック開催翌年の成長率鈍化が、どんな要因で生じているか。要因の詳細は、開催国によって差異があるものの、OECDの統計をみると、大まかにいえば次のようなことが言える。オリンピック開催翌年に成長率が鈍化した国では、大半の国で民間設備投資が鈍化(スペイン、オーストラリア、ギリシャでは開催年より減少)している。
公共投資は、1992年のバルセロナ大会後のスペインと2004年のアテネ大会後のギリシャでは減少しているが、他では必ずしも顕著な変化があるわけではない。民間消費は、オリンピック開催前後で顕著な傾向が必ずしも観察されなかった。逆に言えば、オリンピック開催を契機に、民間消費が恒常的に増加するというわけではないようである。
潜在成長率をどう高められるか
こうしてみると、オリンピック開催を契機に、開催国経済で持続的な成長が実現できる、と単純にはいえない。別の言い方をすれば、オリンピック開催の経済効果は、一時的な需要喚起にはなっても、潜在成長率を後戻りしない形で引き上げることにつながるわけではないといえる。オリンピックは、開催国にとって、その時代の象徴にはなるとしても、マクロ経済にとって新しい時代の幕開けを告げるものには必ずしもなっていないようである。
1964年の東京大会も、高度成長期という時代の象徴にはなったが、高度成長期の次のマクロ経済体制の幕開けを予見するものというわけではなかっただろう。日本経済にとって、高度成長期の次は、変動相場制へ移行した安定成長期を迎えることとなった。
4年後の2020年には、いよいよ東京でオリンピックを開催する。東京大会の成功に向けた準備に全力を注ぐのも大切だが、東京大会開催後の日本経済をどうするかも、今から準備をしておくべきである。重要なポイントは、オリンピックの一時的な需要喚起ばかりにとらわれず、2020年東京大会後にも効果が残る形で日本の潜在成長率をどう高められるかである。
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