なぜ市場関係者の「期待」は裏切られるのか 投機家たちは不都合な真実に直面するだろう

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ところが、英国のEU離脱でそれは破綻した。彼らは、投票結果までコントロールできると勘違いしていたのである。まさに、コントロールの誤謬である。離脱の結果は解釈で逃げ切りようがなく、不都合な事実に直面することになった。

まず、ヘリコプターマネーなどあり得るはずがないのに、再びなぜか盛り上がった。意図的にガセネタを出して、トレードの機会を作ったにしては、多くの関係者が真剣に議論しすぎていた。さらに、安倍政権にすら投機家は裏切られた。しかし、考えてみれば、選挙が終わってから対策を決めるのに、わざわざ大盤振る舞いをする必要はまったくないのである。やるのなら次の選挙前までとっておけばよいのである。

当局を「期待のわな」で追い詰めたつもり

さらに、安倍政権がモダンなところは、旧来の自民党と違って、組織票のために古い関係者、特定の利益団体に利益供与するのでは、選挙に勝てず、浮動票層を取り込むために、幅広い減税が効果的であることをよく知っていることだ。正真正銘のポピュリストなのであり、その局面は消費税引き上げ中止で終了したのである。そんなこともわからないとは、市場関係者は欲望で目がくらんでいるとしか思えない。

そして、今回も同じである。中央銀行は株式市場のために政策を打つのではない。投資家、ましてや投機家のために政策をやるつもりは微塵もない。実体経済のために政策はあるのである。実体経済からは、緩和方向に行く理由がなく、したがって、投機家たちは再び不都合な事実に直面することになろう。

もう少し賢い市場関係者達は、確信犯的に不都合な事実をねじ曲げ、政権や中央銀行を追い込もうとしたと言えるかもしれない。政策期待で為替と株価を動かし、政策が裏切れば、市場が混乱し、責められるのは政権、中央銀行だぞ、という脅しで追い込んだとも解釈できる。政策当局を期待のわなで追い詰めたつもりかもしれない。しかし、わなに陥ったのは、わなを仕掛けて安心し、コントロールの誤謬に陥った彼らのほうなのである。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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