今回は、早川英男氏(元日本銀行理事、現富士通総研エグゼクティブ・フェロー)の「日本経済新聞7月26日付け経済教室」の議論に挑みたい。
渡辺教授と早川元日銀理事の共通点と違いとは?
早川氏の議論とは何か。前回のコラム「なぜ日銀は無謀なインフレ政策をとるのか」で私が議論を挑んだ東京大学の渡辺教授もそうだが、早川氏も、現在の日本の問題は基本的に供給サイドにあると考えている。渡辺教授は、企業のイノベーションのために、デフレを打破し、企業の価格支配力を強め、高付加価値高価格の製品を開発し収益を上げるというモデルに戻り、右上がりの成長に戻ることを求める。そのために、賃金の上昇が必要であるという考えだ。
一方、早川氏も賃金上昇を求めているが、その理由は異なる。
供給サイドの問題であるという認識は共通だが、その問題はより根深く、日本企業は稼ぐ力を失っており、根本的に世界的なイノベーションの波に日本企業が対応できていないことにあると考えている。企業がイノベーションを起こし、企業が稼ぐようにならなければならないという意味で、渡辺、早川氏の認識は見事なまでに一致しており、日本経済の問題はここにあることは間違いない。
しかし、その因果関係は両者で逆である。厳密に言うと、逆というよりは、部分的な不適合にあるのか、根本的な力不足なのか、という点で異なる。渡辺氏の方は、企業の睨み合い、慣習(ノルム)が悪い均衡に陥っており、値下げ競争、コストカット競争という縮小均衡の中での競争にあることが原因であり、この均衡を打破すれば、道は開ける。したがって、金融政策でデフレ期待を完全に解消すれば良く、賃金を上昇させるのもそのために当然必要、ということだ。
これは実はアベノミクスと同じ構造で、2012年に株式市場(および為替市場)が陥っていた悲観均衡、日本株は上がらない、だから買わない、という萎縮均衡を打ち破るために、ともかくデフレ脱却と叫び、金融緩和バズーカで市場をショック療法で目覚めさせ、縮小均衡を打破したのと同じ論理で、したがって、渡辺氏がアベノミクスに対して(政治的にではなく)政策として支持しているのとも整合的だ。
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