アベノミクス論争はもうやめよう。必要なのは、真の経済学論争である。
巷のアベノミクス批判、あるいは支持は、政治的な論争であり、われわれ経済学者とは関係がないだけでなく、経済学に対する不信を招き、本来行うべき経済学の論争の機会を失ってしまっている。またこうした形だけの経済政策論争は、政治的な論争、さらに悪いことに、似非(えせ)経済学者の売名行為、社会的地位獲得のための争いとなってしまう。これらは、アベノミクスがもたらした経済政策アリーナにおける最大の罪であろう。
実質的にわれわれが議論すべきは、もちろん金融政策、クロダノミクスである。黒田東彦・日銀総裁のサプライズ戦略――これは市場を驚かせて、市場での中央銀行と投機家のゲームをリードし、完全に彼らを支配することによって、前半戦は黒田氏が圧勝した。これが前日銀総裁の白川氏が唯一できなかったことである。ただ、前半勝ちすぎたために、後半は投機家たちの逆襲を呼び、苦しくなり始めたというのが現在であろう。
問題の東大「渡辺論文」の中身とは?
しかし、ここで重要なのは、黒田氏の戦術ではなく、その根本的な思想である。なぜ、インフレにしなければならないのか。ここを避けては通れない。いや、これこそが、現在、経済学において論争すべき最大のポイントなのである。そして今日の論争のターゲットは黒田氏ではなく、渡辺努・東京大学教授だ。
渡辺教授は7月25日付日本経済新聞の経済教室で、「物価はなぜ上がらないのか」、というテーマに対して、企業の価格据え置き慣行がその要因であるとし、これを脱却することが最重要だと述べている。そして、この慣行、「ノルム」の形成に影響を与えたのがこの20年のデフレであり、これを放置した日銀の金融政策に問題があるとし、したがって、日銀は、このノルムを破壊するために、何かをする必要があり、具体的には、政府と日銀が2013年1月に結んだ政策協定(アコード)を見直し、日銀の政策目標をインフレターゲットではなく賃金ターゲティングに切り替えよ、と主張している。
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