なぜ日銀は無謀なインフレ政策をとるのか 「インフレが全てを解決する」のは幻想である

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注目の日銀金融政策決定会合は28・29日。黒田日銀総裁の戦術に注目が集まるが、そもそもなぜ日銀は危険なリスクを取ってインフレにする必要があるのか。政治的な「アベノミクス論争」の前に、それが置き去りにされている(写真:ロイター/アフロ)

アベノミクス論争はもうやめよう。必要なのは、真の経済学論争である。

巷のアベノミクス批判、あるいは支持は、政治的な論争であり、われわれ経済学者とは関係がないだけでなく、経済学に対する不信を招き、本来行うべき経済学の論争の機会を失ってしまっている。またこうした形だけの経済政策論争は、政治的な論争、さらに悪いことに、似非(えせ)経済学者の売名行為、社会的地位獲得のための争いとなってしまう。これらは、アベノミクスがもたらした経済政策アリーナにおける最大の罪であろう。

実質的にわれわれが議論すべきは、もちろん金融政策、クロダノミクスである。黒田東彦・日銀総裁のサプライズ戦略――これは市場を驚かせて、市場での中央銀行と投機家のゲームをリードし、完全に彼らを支配することによって、前半戦は黒田氏が圧勝した。これが前日銀総裁の白川氏が唯一できなかったことである。ただ、前半勝ちすぎたために、後半は投機家たちの逆襲を呼び、苦しくなり始めたというのが現在であろう。

問題の東大「渡辺論文」の中身とは?

しかし、ここで重要なのは、黒田氏の戦術ではなく、その根本的な思想である。なぜ、インフレにしなければならないのか。ここを避けては通れない。いや、これこそが、現在、経済学において論争すべき最大のポイントなのである。そして今日の論争のターゲットは黒田氏ではなく、渡辺努・東京大学教授だ。

渡辺教授は7月25日付日本経済新聞の経済教室で、「物価はなぜ上がらないのか」、というテーマに対して、企業の価格据え置き慣行がその要因であるとし、これを脱却することが最重要だと述べている。そして、この慣行、「ノルム」の形成に影響を与えたのがこの20年のデフレであり、これを放置した日銀の金融政策に問題があるとし、したがって、日銀は、このノルムを破壊するために、何かをする必要があり、具体的には、政府と日銀が2013年1月に結んだ政策協定(アコード)を見直し、日銀の政策目標をインフレターゲットではなく賃金ターゲティングに切り替えよ、と主張している。

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