渡辺教授の賃金ターゲットは彼のここ数年の主張であり、私は、コントロールできないものを目標とするには問題があるという点で、強く反対する。
しかし、それよりも問題なのは、渡辺教授が、なぜノルム、企業の慣行を壊す必要があるのか、説明した中身にある。これこそが、われわれがいま論争すべきことだ。
デフレはなぜ悪いか。デフレは企業の価格支配力を弱める。企業の価格支配力が弱まると、コスト削減以外の生産性向上のインセンティブが弱くなる。よってイノベーションなどがおきなくなり、経済の活力が低下する。だから、デフレは経済を低迷させる。よってデフレ脱却は非常に重要だ、ということである。さらに、この価格据え置きのノルムは、世界全体の生産性向上による部分もあるが、金融政策が影響を与えた部分もあるはずで、これが重大な問題だと主張している。
渡辺教授の論旨は一見明快だが・・
渡辺教授の一連の研究の集大成ともいうべき議論であり、その研究成果は素晴らしい。しかし、ここで問題なのは、企業の価格設定慣行のノルムを打ち破るために、日銀があらゆるコストを払ってインフレを起こすべきなのか、そして、ノルム打破が日銀に可能なのか、金融政策に可能なのか、ということである。
渡辺教授は、自ら作り出した日次でほぼリアルタイムに追える価格指数の動きや彼の多数の他の研究を背景に、モノの価格においては、すでにデフレを脱却しており、2%インフレ水準に相当するところまで価格は十分に上昇しており、足りないのはサービス価格の変動であると分析している。
したがって、物価を上昇させるには、サービスの価格が上がらなくてはならず、これが上げられないのは、サービスセクターの企業のノルムであるようだ、という分析も彼はしている。そして、この背景には賃金が上昇しないという問題がある。だから、サービスセクターにも価格上昇が波及するように賃金を上昇させるべきだ、というのが渡辺教授の主張である。
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