──なぜ江戸期なのですか。
維新のときにそのちょっと前の時代、つまり江戸期という時代を全否定している。いわば一夜にして全否定して廃仏毀釈、そして西洋崇拝に走った。江戸期は全否定されるような時代では決してなかった。値打ちのある時代だった。
──江戸期についても世間の常識にとらわれず執筆を進める?
余計に反発があるかもしれない。いまだに明治維新=善・正義というとらえ方がある。明治維新を著作で否定すると、学校で習うことと違いSFを読んでいるようで新鮮だと言われる一方で、ここまで反発がひどいものになるのかという印象もある。私自身は「過ち」ではないかという問題提起をしているのだが、「おまえは明治維新を否定している。つまり反日主義者である」と手紙で言ってくる。相手が誰だかわからないから反論のしようもない。
和算のレベルは世界的にず抜けていた
──『官賊と幕臣たち』では幕末の幕臣たちの再評価をしています。
それこそ江戸期の社会はこうだったとしっかり説明する必要があるようだ。そうしないと、維新の「過ち」もうまく伝わらない。活躍した幕臣はそれぞれ個人の器量も高いが、それだけではない。
たとえば太平洋を渡った咸臨丸の、今で言えば機関長、小野友五郎。彼は単なる笠間藩士にすぎないように見えるが、天文学の知識と、それに基づく測量技術は半端ではない。同乗していた米国太平洋艦隊のブルック大尉がびっくりしたという。その底辺には和算のレベルの高さがある。
18世紀に入った時点で、和算のレベルは世界的にず抜けていた。関孝和だけではない。よく知られているように、彼が円周率をはじき出して何十年後かに欧州でそれが確認されたほどだ。本に書いた戊辰東北戦争の際に二本松少年隊を率いた木村銃太郎にしても、彼は韮山代官所の江川塾出身。微分・積分はお手のもの。砲術に必要になる数学、動学(幾何学)、化学を総合的にたたき込まれている。
江戸期はそこまで進んでいたから、社会の基礎レベルを知ったうえで理解しようとしなければいけない。識字自体も4人のうち3人までができた。当時の大英帝国は4人に1人ぐらいだったというから、レベルが違う。
──今、ご自身は作家と経営者の二足のわらじを履いていますね。
企業経営は難しい。実は早く引退したいと思っているのだが。
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