明治維新 1858−1881 坂野潤治・大野健一著 ~江戸期の民間経済は通説以上に発展していた

明治維新 1858−1881 坂野潤治・大野健一著 ~江戸期の民間経済は通説以上に発展していた

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 途上国が世界システムに組み込まれる際、経済、社会システムは大きく変容する。これがグローバリゼーションの衝撃にほかならないが、150年前に途上国であった日本もその例外ではなかった。開国をきっかけに、武士階級を中心に政治改革が始まり、それが徳川軍事政権の崩壊だけでなく、封建制や身分制を否定する明治革命にまで至る。本書は、日本政治史の泰斗と気鋭の開発経済学者が、歴史上類まれな、途上国の変革の成功例である幕末維新期の政治メカニズムを解明したものである。

通説では維新期を、天皇を戴いた排他的な藩閥政権が、憲法・議会の設置をできるだけ遅らせ、経済と軍事の近代化に邁進した時代とし、戦後のアジア型開発独裁の原型ととらえることが多い。本書はこれを否定する。幕末維新期には複数のリーダーが登場し、自らの掲げる目標を達成すべく、互いに競合した。アジア型開発独裁が一人のカリスマによる単一目標型の硬構造を持つのに対し、著者らが「柔構造」と呼ぶ幕末維新期の政治構造は、極めて複雑な局面展開をもたらすモデルである。

幕末期には、富国強兵と公議輿論の二つが中心的な目標として掲げられ、それが維新期には富国(大久保)、強兵(西郷)、憲法(木戸)、議会(板垣)の4派に分かれる。各派とも単独で主導権を獲得し得ないため、他派と連携し、自派の目標を追求するとともに、数年ごとに訪れる状況変化に対応して連携を組み替える。

幕末維新期に多くの逸材が現れ、複雑な展開を見せ、わかりづらいのは、この柔構造に原因があったのである。複雑な展開は幕末維新ファンにとり、たまらない魅力の一つと言えるが、「柔構造」仮説でそれを読み解くことも新たな楽しみとなる。

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