しかも、国際仲裁裁判所が明らかにした国際法的状況は南シナ海についてであるが、中国は東シナ海(尖閣諸島)や台湾についても十分な法的根拠は示せないまま「歴史的権利」を主張している。これらが国際裁判で取り上げられると、今回と同様「国際法的根拠がない」と判断される可能性がある。
この観点はまだ議論されていないが、いずれ浮上してくることを考えると、今般の裁判結果は南シナ海に限らず、東シナ海や台湾にまで影響しうるものだ。
台湾にとっても対応を再検討する機会に
今回の判決は台湾政府にとっても強い衝撃となる。台湾は、馬英九前政権の時代にフィリピンによる国際仲裁裁判所への提訴は認めないという態度を表明した。中国と同様の拒否姿勢を示したのだ。
去る5月に発足した蔡英文新政権として、前政権時代からの経緯は国際的な観点からもまた国内のナショナリズムに鑑みても簡単に放棄できない厄介な問題だ。
しかるに、今回の明快な判決は台湾にとっても対応を再検討する機会になりうる。蔡英文政権は台湾では国民党政権の延長線上にあり、そのため国民党が主張した「十一段線(中国の九段線と実質的には同じ主張)」を無視はできないが、今般の裁判をどのように受け止めるべきか、検討が必要なはずである。
一方、フィリピンにとっては全面勝訴となったので裁判結果に満足しているだろうが、フィリピンのスカボロー礁やスプラトリー諸島に対する領有権が認められたわけではない。そもそも今回の裁判においてフィリピンはそのようなことを求めたわけではなかった。つまり、今般の判決は、これらの岩礁の領有権について判断したのではなく、中国の主張の当否を判断したに過ぎない。
南シナ海の島や岩礁の帰属は複雑な問題だ。国際法的には、日本がサンフランシスコ平和条約でスプラトリー諸島に対する権利を放棄した(第2条f項)後、その帰属は未決定になっているという問題も絡んでいる。
中国は、1992年に領海法を制定し、すべて中国の領土であると規定したが、それは中国の国内法に過ぎず、国際法的な根拠となりえない。このことも今般の仲裁裁判判決で、間接的ではあるが、明らかになっている。
しかし、南シナ海の法的地位が未定である限り中国としても建設的に対応する余地がある。この地域の島や岩礁の帰属を決定するために今後とも協議をするのは当然だ。幸い、中国もフィリピンも今後話し合いをする姿勢を示している。
今回の決定は、南シナ海の現状を一方的に変えるべきではなく、国際法に従って行動すべきだという米国や日本の主張が正当であったことを確認し、さらにその理由を具体的に示すものである。その意味では、われわれの立場は一段と強化されたのは間違いない。
だからといって中国の行動を非難し続ければいいというわけではない。中国政府が国際仲裁裁判所の判断を建設的に受け止める余地は残されていると考え、良識的な判断を引き出すべく、外交努力を続けるべきだろう。
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