最高のプロレスが再度、日本を勇気づける 木谷高明・新日本プロレス会長に直撃(その4)

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グローバルエリートの講評

 さて、最終回はプロレス業界が他業種とどう競争していくのかと、プロレスの今後のコンセプトについて議論した。

木谷氏は、UFCの参入が競合上の脅威にあたると語っている。ただ私はUFCがもし日本で人気が上がれば、これはプロレス業界にとってもプラスだと思っている。プロレス団体が淘汰され、格闘技団体も滅び行く中、格闘技コンテンツマーケットのサイズ自体を大きくするのを新日本プロレスが一手に担うのは難しいと思うからだ。

また総じて健全な競争相手がいてこそ、サービスの品質向上という意味で顧客にあたるファンにメリットが多くなるものである。世界で市場を獲得するUFCと全面対決してファンを勝ち取れる力を新日本プロレスが身に着けた時に、新日本プロレスがグローバル展開するのに必要な商品力が身につく。その意味で全日本プロレスやノアから、グローバルプレーヤーであるUFCやWWEをベンチマーク対象としてライバル視するのは、ソニーが三洋やパナソニックではなくサムスンやアップルと闘わなくてはならないのと同じく、グローバリゼーションの宿命だともいえよう。

今回のプロレス特集で見てきたよう、新日本プロレスはバランスシートをリストラし、キャッシュリッチな会社の下で攻めの経営を打てるようになった。そしてマーチャント戦略でシナジーを早期に実現しており、海外展開も視野に入れている。そしてプロレスのライブ・コンテンツのクオリティを高め、観客とレスラーが共に最高の盛り上がりを共につくれるような最強から最高へのコンセプト転換を図ろうとしている。私は一プロレスファンとして、新生新日本プロレスの門出を心より応援したい。

最後に余計なお世話を付け加えよう。様々な国で様々な企業に投資してきて、数多くの大中小企業の経営者と経営計画を議論してきた私であるが、企業の戦略や計画の大半は失敗に終わる。

その原因は経営陣が初期の成功に慢心し、サービスの革新を怠り、顧客の要望や不満を軽視して経営陣が企業を私物化することから始まる。プロレスは戦後の復興期から脈々と社会に受け継がれてきて多くの人々に愛されてきており、相撲や野球と同じく文化財的な要素も強い。新日本プロレスの皆様にはぜひ、プロレスという文化財を使命感をもって発展させていってほしい。

長引く不況と高止まりする失業、そして他人とのつながりが薄れていく現代の日本社会で“他人同士が一緒に最高に盛り上がりたい”というライブへの需要はかつてなく高まっている。今から60年前の戦後、焼け野原で途方に暮れる日本人をプロレスが勇気づけ励ましたように、再度日本人を大きく勇気づける役割を、プロレスが果たしてくれることを願ってやまない。

昨年末、プロレスは高齢化が進み変化がなく分裂を繰り返していると誤った認識を持ってとんでもないコラムを書いたグローバルエリートは、新日本プロレスとファンの皆様のパワーの前に完全にフォール負けした。これからは心を入れ替え、新日本プロレスとファンの皆様とタッグを組んで、日本のプロレス業界の発展を見守りたい。

多忙な最中、今回の取材に応じて下さった新日本プロレスの皆さん、また企画の実現に協力して下さった東洋経済オンラインの皆さん、そして、取材のきっかけとなるご批判をくださったサムライTVの三田佐代子さんに感謝しつつ、今回のプロレス特集の締めとさせていただきたい。

ムーギー・キム 『最強の働き方』『一流の育て方』著者

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Moogwi Kim

慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、大手コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当した後、香港に移住してプライベート・エクイティ・ファンドへの投資業務に転身。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。著書に『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』と『一流の育て方』(母親であるミセス・パンプキンとの共著)など。『最強の働き方』の感想は著者公式サイトまで。

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