景気低迷の真犯人は、技術革新の停滞か? 米国を賑わすイノベーション論争

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信用収縮によってイノベーションが減退

こうした考え方は非常に興味深くはあるが、景気低迷の原因は深刻な金融危機の後遺症ではなく、長期的なイノベーションの停滞だとする十分な証左はない。

確かに科学的な発展が鈍化しており、最新の携帯端末などガジェットも過去の技術の派生品にすぎないと考えている人は少なくないだろう。一方で、一流大学に籍を置く科学者の大半はナノテクノロジーや脳科学、エネルギーといった最先端技術分野で自らが手掛ける研究やその成果について大きな期待を抱き、自分の研究がこれまでにない速さで世界を変えると信じている。

では経済学者である私がイノベーションの停滞についてどう考えているか、というと、傲慢な独占欲がアイデアの抑圧につながり、その点で近頃頻発している特許争いこそ技術停滞を悪化させると考えている。

景気低迷の主因は信用バブルとその後のメルトダウンに間違いない。が、今の状況が過去世界中で起きた金融危機後の状況と類似していることは、失業率や不動産価格、累積債務など定性的な情報以外からも見て取れる。現在が過去の状況に似ていることはまったくの偶然ではない。

今回の信用バブルは技術革新やグローバリゼーションといった言葉とともに膨らんだ景気拡大への過剰な楽観主義によって引き起こされた。私はカーメン・ラインハルト氏との共著『国家は破綻する』の中で、技術革新やグローバリゼーションが過去にもこうした楽観主義を招き、これが信用バブルを助長するということも指摘している。

信用収縮で最も大きな打撃を受けるのはたいてい中小や新興の企業だ。優れたアイデアやイノベーションはこうした企業から生まれることが多いため、現在の信用収縮が長期的な経済成長に影響を及ぼすことは避けられないだろう。同時に失業者や不完全雇用者の技術力も低下していく。近年の新卒者がいい例だ。彼らは卒業しても自分の技術向上につながる職をなかなか見つけられず、自らの生産性や収益性を下げる事態に追い込まれている。

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